EU版iPhoneの「退化」を日本も無視できない理由 DMA対応でアプリストアなど開放、リスクは増大

拡大
縮小

DMA対応が施された新しいiPhoneを歓迎する開発者やアプリ開発会社も少なくはない。ある一面を取り出せば利点もある。

例えばWebKit以外のブラウザエンジンが利用可能になるため、アップルが力を入れていないジャンルのウェブ技術への対応が進む可能性がある。これまでは、たとえグーグルのChromeなどを利用する場合でも、そのエンジンはアップル製のWebKitでなければならなかった。

現在のWebKitは、WebXRという拡張現実のウェブ標準に追いついておらず、機能的に低く安定性にも乏しい。代替ブラウザエンジンが利用できれば、こうしたジャンルのウェブ標準に対応する手段が拓ける。

AppStore以外のアプリストアが開放され、決済手段も選べるようになることは、前進ととらえられなくもない。

アップルが他の決済手段の導入を禁止し、開発者に対してアプリ内課金から最大30%の手数料を徴収していることなどに反発する声があることは、人気ゲーム「Fortnite」の開発元であるエピックゲームズとアップルの訴訟などのニュースからご存じの方も多いはずだ。

ジョブズも苦慮していた“ジレンマ”

しかし、一連の規制緩和が本当に前進あるいは進化した結果なのかというと、大きな疑問符がつくと筆者は考えている。なぜなら、それらはパーソナルコンピュータの歴史上、もっとも困難な挑戦を成功に導いてきた“秘伝のタレ”の一部だからだ。

iPhone、iPadは、それぞれスマートフォン、タブレット端末というジャンルの製品だが、その本質はパーソナルコンピュータであり、WindowsやMacと本質的な違いはない。その歴史を遡ると、黎明期から、悪意あるソフトウェア(ウイルス、マルウェア)の脅威と隣り合わせだった。

生前、スティーブ・ジョブズは「開発者に先進的でオープンなプラットフォームを提供すると同時に、iPhoneユーザーをウイルスやマルウェア、プライバシー侵害などから守ることは簡単な仕事ではない」と話していたというが、多くのコンピュータエンジニアは彼の意見に同意するはずだ。

先進的な機能や高い性能を開発者が使いこなせば、それまで実現できなかったアプリケーションを生み出せる。一方で、同時にそれは“より高度な悪意あるソフトウェア”を生み出すための道具にもなりうる。

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT