SNS多用する人に伝えたい、相手を傷つけない技術 文字によるコミュニケーションが難しい理由

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少し想像してみてほしいのだが、あなたがいいところを見せたいと思っている観衆の前に立っているとき、プライベートで1対1で議論しているときと比較して、どれくらい猛烈に自分の立場を守ろうとするだろうか。

途中で考えを変えたり議論に「負ける」ことは屈辱的だと捉えられるため、ソーシャルメディア上の議論が多くの場合、悪い方向に捻れてしまうのも、まったく驚くことではないことが分かるだろう。

公開での会話とプライベートでの会話は違う

逆に、ソーシャルメディア上で会話をもつことの利点は、主に2つある。そしてそのどちらも、公開のソーシャルメディアで行うことを必要としない。

『話が通じない相手と話をする方法――哲学者が教える不可能を可能にする対話術』(晶文社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

2つの利点は要するに、デジタル・テキストを通じたやりとりは、色々な弱点はあるものの、時間や空間の制約がない、ということでまとめられる。

インターネット接続さえあれば、リアルタイム通話が低コストかつ地球上のほとんどすべての場所にいる人とあっという間にできてしまう。

それに、答える前に少し考える時間を取ったり、落ち着く時間がほしいと思うような質問をパートナーが投げてきたら、必要なだけ時間をとることができる。

この性質のおかげで、対面だとしばしば会話を脱線させかねない、感情的なリアクションを抑えることができる。

こういう点は確かに、紛うことなき利点だと言える。

しかし再度強調しておくと、公開での会話とプライベートでの会話は違うということを忘れてはならないし、揉めそうな話題に触れ始める前には、プライベートに切り替えるようにすることだ。

ピーター・ボゴジアン 哲学者

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Peter Boghossian

1966年生まれ。アメリカ合衆国出身の哲学者。主たる関心は、批判的思考や道徳的推論の教育に関する理論とその実践。ソクラテス式問答法を活用した囚人教育プログラムの研究によってポートランド州立大学から博士号を取得し、2021年まで同大学哲学科で教員を務めた。意見を異にする人びとが 互いの信念や意見の根拠について理性的に話し合うためのテクニックである「路上の認識論」(Street Epistemology)を提唱。著書に、『無神論者養成マニュアル』(A Manual for Creating Atheists)など。

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ジェームズ・リンゼイ 文筆家、批評家

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James Lindsay

1979年生まれ。アメリカ合衆国出身の文筆家、批評家。テネシー大学ノックスビル校で数学の博士号を取得。宗教やポストモダン思想の問題を分析・考察する論考を多数発表している。著書に、『「社会正義」はいつも正しい――人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて』(ヘレン・プラックローズ共著、山形浩生+森本正史訳、早川書房)など。

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