苦手な人を「避ける」人が失ういくつもの大切な事 「わからない」を拒むと、「わかる」機会を失う

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さて、レヴィナスは、ともすればわかりあえず、敵対的になりうる可能性のある「他者」との邂逅において、しばしば「顔」の重要性を指摘しています。例えば次のような文章です。

ひとり「汝殺す勿れ」を告げる顔のヴィジョンだけが、自己満足のうちにも、あるいはわたしたちの能力を試すような障害の経験のうちにも、回帰することがない。というのは、現実には殺すことは可能だからである。ただし殺すことができるのは、他者の顔を見つめない場合だけである。エマニュエル・レヴィナス『困難な自由 ユダヤ教についての試論』内田樹訳

これほどまでに「なんだかよくわからないけど、何かとても大事なことが書かれている気がする……」と感じさせる文章も少ないのではないでしょうか。

レヴィナスの文章は全般に難解ですが、言葉がもたらすイメージの広がりを素直にすくい取っていくと、読む人それぞれなりに「ストン」と来るところがあるように思います。

レヴィナスがここで言おうとしているのは、わかりあえない他者とのあいだであっても、「顔」というビジョンを交換することによって、関係性を破壊することは抑止できる、ということです。

『E.T.』における他者の描かれ方

テキストで読んでも、なかなかピンとこないかも知れませんが、同様のメッセージを暗に伝える映画や漫画はたくさんあります。

例えば、地球外生命体(以下、簡易に異星人と記す)と子供との交流を描いたスティーブン・スピルバーグの傑作映画『E.T.』を取り上げてみましょう。

この映画では、地球探査に来て宇宙船から取り残されてしまった異星人と、彼をかくまってなんとか宇宙へ帰してあげようとする子供たちとの友情が描かれています。彼らの敵役として描かれている地球人の大人たちは、この異星人をなんとか捕獲して研究材料にしようと子供たちを追いつめますが、子供たちはこの包囲を逃れ、異星人は迎えに来た宇宙船に無事にたどり着いて地球を去っていく、というストーリーです。

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