――どういった経緯で人物にフォーカスしたノンフィクションを書くようになったのですか。
ペンを持たせてもらったのが25歳、今年で40年になる。20代、30代はニュースを中心に書いていた。東京地検特捜部に強く、スクープを得意としていた。事象を書く場合は事実の確認が必要で、徹底的に調べていた。
当時、本を書きたい、長い文章を書きたいとは思っていたが、何を書きたいかわからなかった。チャンスをくれたのは日経ビジネスだった。その後、50代半ばに文藝春秋の仕事でセゾングループ元代表で作家でもある堤清二さんにインタビューをした。1回1時間の予定が7回、16時間話してくれた。
編集長に「これは肉声だけでまとめたら」と言われて3号にわたって連載し、大宅壮一ノンフィクション賞をいただいた。その後、本にまとめることになった(『堤清二 罪と業 最後の「告白」』)。編集や校正の担当者が総がかりで作品を作ってくれる。言葉をどう統一するかなど全部を見直した。その過程がすごく気持ちよかった。大してお金にはならないが、やりがいは大きい。
堤氏のインタビューを機に、主題が人間の運命や業に寄っていった。語る言葉が真実か狂気かわからない、わからないけどその言葉の強さに魅せられた。堤さん、國重(惇史・楽天元副会長)さん、服部さんにしても、特異な人だ。普通の読者にとってはひとごとですよね。
だけど、誰でも心の中、魂の中を覗くと似た部分があるのではないか。そういった意味で、実は決してひとごとではない。特異な人物を描きながらも人間の普遍を描いているつもりだ。
――ビジネスとしてノンフィクションが成り立ちにくい時代です。ネットでバッシングも受けるリスクも大きい。
思想家の内田樹さんから、ネットのネガティブなコメントは「丑の刻参り」だから見ないほうがいいと言われた。関わると悪いエネルギーを受けることになる、と。読者の反応はものすごく気になるし、ほめられるとうれしいが、ネットはあまり見ないようにしている。
世の中はワンダーランド、面白いことがたくさんある
――この後はどういった作品を出していく予定ですか。
ソニーのCEO(最高経営責任者)だった出井(伸之)さんの評伝を書いている。あと、福井の高校生がやっている原発を考える活動についても書いている。中学時代に不登校だった子らが、自分の意思で原発について学んでいく。単に賛成反対ではなく、今ある原発を見て、何かを学び、社会の矛盾に触れて揺れながら自立する姿に感動した。文春オンラインに記事として書いたが、これを本にまとめる予定だ。
この2本のほかにも脈絡なくいろんな人に会っている。この世の中、ワンダーランド。いろんなところに鉱脈はある。とくに地方には面白いことがたくさん眠っている。ネガティブなことばかりとあきらめてはいない。
――某テレビ番組ではないですが、児玉さんにとってノンフィクションとは何ですか。
現実は圧倒的にすごい。人間の想像力をいとも簡単に超えていく。それを伝えられるのがノンフィクション。だから、しがみついても書いていく。
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