障害者手帳をやっと手にした44歳男性の紆余曲折 「TOEIC975点」資格は多数だが、メンタルは悪化

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一方で気が付くと、仕事以外のことで過度に活動的になることがあった。英語のスピーチサークルに参加したり、行政書士の勉強を始めたり、留学の準備を進めてみたり。「ハイテンションになってあれこれ手を出すのですが、どれもが中途半端に終わり、結局は落ち込む」とユズルさん。双極性障害におけるそう状態の典型的な症状だという。こうしたときは、仕事でもケアレスミスや指示忘れが続くようになる。

いずれの職場にも精神疾患のことは打ち明けていた。しかし、障害者雇用枠ではないので、相応の支援や配慮を受けることはなかった。メンタルの状態が不安定になったせいで周囲との関係が悪化することもあったという。

炭酸水を飲んで空腹を紛らわせることも

断薬を試みたのも「ハイテンション」の時期。しかし、服薬をやめた途端「眠れない、食べなくても平気」という状態に陥る。体重が激減して3度目の入院、そこで統合失調感情障害と診断された。

「実はこれまで主治医や病院は結構変えてきました」とユズルさんは打ち明ける。「(3度目に入院した病院で)統合失調感情障害と診断されたことは、妄想や幻覚があるわけではないので疑問もあります。でも、このときに初めて『これまで苦労されましたね』と言ってもらえたんです。救われた気持ちになりました。障害者手帳を取得するよう勧めてくれたのもこの病院でした」

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かつての主治医から「エゴで病気になった」と言われて20年。現在は障害者雇用枠で宿泊施設のパート従業員として働く。月収約17万円のうち約6万円は家賃に消えるので、やり繰りは厳しい。そのうえ、ここ数年の物価高も追い打ちをかける。

「暖房代を節約するために部屋ではダウンコートを着て過ごすこともありますし、炭酸水を飲んで空腹を紛らわせることもあります」

あらためて当時の主治医の発言をどう思うかと尋ねると、「とても悲しい気持ちになったことを覚えています」と振り返る。「悔しい」でも「怒りを覚える」でもなく、「悲しい」と表現するところが、ユズルさんの人柄を表しているようだった。

「もっと早く障害者手帳を取ることができていれば、違った人生があったのではと考えることもあります。社会がもう少し精神疾患のある人に寛容になってくれればと思います」とユズルさん。まずは今勤めている会社で契約社員になり、できれば無期雇用社員になることが当面の目標だという。ささやかすぎる希望である。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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