もちろん障害者手帳や年金に関する事務手続きを所管するのは地方自治体、もしくは年金事務所だし、障害者の就労支援を担うのはハローワークである。ただ利用や支給の決定にあたっては主治医の見解が大きく影響する。ユズルさんはダメもとで精神保健福祉センターも訪ねてみたが、案の定、医師の見立てを基に「君のように普通に対話できる人は一般雇用枠での就労を目指したほうがいい」と事実上の門前払いを食らったという。
資格を取っても就職につながらない
手帳の取得を考えると同時に、ユズルさんなりに手に職をつけようと、大学卒業後は得意な英語に磨きをかける努力もしてみた。専門の学校などに通い、全国通訳案内士や英検1級、通訳技能検定2級を取得。その後、TOEICは975点(990点満点)を記録した。
「これなら通訳か翻訳家として食べていけるのでは」と夢を抱いた。ところが、通訳者や翻訳者を派遣する会社の面接を受けた際、著名な通訳者でもあった面接官から「君は大学を出てからなんの仕事にも就いていないんだね。まずは職業適性を見極めたほうがよいのでは」とダメ出しをされてしまう。
資格を取っても就職につながらない――。主治医に障害者手帳について相談をしたのはちょうどこのころのことだという。ところが、返ってきたのは精神疾患は自己責任といわんばかりの言葉だった。
通訳の資格も生かせない、福祉サービスの利用もできない。ならばと、いくつかの会社でパートやアルバイトとして働いてみた。倉庫内のピッキングやスーパーの品出しといった仕事だったが、いずれも1、2年でうつ状態になったり、気分の浮き沈みが激しくなったりしてどうにも働き続けることができなかったという。この間、両親に迷惑をかけまいと、一人暮らしを試みては体調を崩し、実家に出戻るということも繰り返した。
ユズルさんの履歴書の「免許・資格」欄を見ると、「サービス接遇実務検定2級」「リテールマーケティング検定2級」「ロジスティクス管理3級」「ITパスポート」など数多くの取得資格が並ぶ。転職を繰り返すなかで、少しでも能力やスキルを身に付けようとあがき続けた様子がみてとれるようだった。
一方でメンタルの状態は悪化の一途をたどる。
20代の終わりに別の精神科医から双極性障害と診断される。数年前には独断で処方薬の服用をやめてみたが、4カ月で体重が20キロも落ちた。結局、3度目の入院をすることになり、その際に統合失調症と気分障害が併発する統合失調感情障害と診断された。
そして退院後に障害者手帳を取得。今は毎月約6万円の障害年金を受給しながら障害者雇用枠で働く。フルタイム勤務ではないので、月収は年金を合わせても17万円ほどだ。
そもそもユズルさんが精神疾患を発症したきっかけはなんだったのか。
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