本書のユニークなところは「野球、スポーツと体罰」の関係について、歴史的な資料、文献をもとに掘り起こしたところだ。
「2012年に大阪市立桜宮高校で体罰を受けたバスケットボール部員が自殺するという事件がありましたが、このころから、早稲田大学の石井昌幸先生(現早稲田大学スポーツ科学学術院教授・早稲田大学競技スポーツセンター所長)らとともに、スポーツと体罰について考えてきました。
私は歴史学的なアプローチから野球の体罰について取り組むことにしました。ただ、実態、事実をどう捉えるかが一番難しくて、先行研究を見ても、いつどこでどんな体罰が行われたかってはっきりしないんですよね。
でも、いろいろな文献を読んでいくと『体罰』『暴力』の事例が、けっこう載っている。個別の事例だけを取り上げると、それでおしまいなのですが、量的に集めたら、ある時期から、同時多発的に体罰、暴力が起きていて、社会的な変化にともなう体罰の実態の変化が明らかになってきたわけです」
競争が高まる中で「体罰」が始まった
中村氏の研究によれば、日本野球で体罰が顕著になってくるのは、東京六大学が設立され、今の甲子園、高校野球の前身である中等学校野球大会が生まれた大正期だという。
つまり、野球熱が高まり、メディア、社会の注目も集まり、チームに多くの選手が集まってレギュラー争いなど、競争が高まる中で「体罰」が始まったのだという。
「大学野球ではベンチ入りは20数人くらい。チームサイズが大きくなって、その2倍くらいの部員がいるようになってから、体罰などが顕著になってきたようです。これくらいになると、努力してもレギュラーとかベンチ入りメンバーになれない可能性がかなり高まります。
だから、実力的に及ばず、球拾いだけ、バッティングピッチャーだけで現役を終える選手が出てくる。それとともに体罰や暴力が増えてきた印象ですね」
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