FC東京は、こうやって「武藤」を育て上げた 選手の"自立"を促す、育成型クラブの極意

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育成部長の福井は小学5年生の頃から武藤に接してきた(撮影:今井康一)

世田谷区出身の武藤は、地元のジュニアチームでサッカーを始め、2005年、中学1年生の時にFC東京の下部組織に入った。この後、大学入学までの6年間をFC東京の育成部門で過ごすことになる。

FC東京はJリーグの中でも一風変わったクラブだ。経営ビジョンとして7つのテーマを掲げているが、その筆頭に据えるのは「育成体制の確立」。ほかのクラブが最優先の目標とする「優勝争いができるクラブづくり」は、あえて2番目に置いている。

その成果だろうか、下部組織からは武藤だけではなく、現日本代表ゴールキーパーでFC東京の不動の守護神でもある権田修一、欧州のクラブチームに所属した経験のある李忠成(浦和レッズ)や梶山陽平(FC東京)など、数多くのプロ選手を輩出している。

現在の経営ビジョンが策定されたのは2012年。だが、育成重視のDNAはそれ以前から培われてきたものだ。その理由は、FC東京の母体である東京ガスに求められる。首都圏へのガス供給という公益性の高い事業を生業としてきたこともあり、「FC東京というクラブチームを立ち上げた1999年よりも以前から、地域に還元するための組織づくりという意識が強かった。その中で、着実に育成組織を作り上げてきたことが今につながっている」(育成部長の福井)。

それだけに、育成の手法についても、FC東京独自のこだわりがあった。それは「考える習慣をどう身につけさせるか」。サッカーは野球のように監督のサインで選手が動くわけではない。試合が始まると、選手は自分たちでさまざまな状況を判断し、行動を起こさないといけない。そのとき必要になるのが、選手たちの「自立」というわけだ。

クラブを貫く「自立」の追求

今年から社長に就任した大金(撮影:今井康一)

実は、FC東京はこの「自立」をクラブの行動指針にも掲げている。その狙いについて、社長の大金直樹はこう説明する。

「私がFC東京にやってくる前年(2010年)、成績不振でJ2への降格が決まった。何が足りなかったのかと選手に聞くと、他人任せ的な意見が多かった。ゆとり世代が大人になって、世間に“指示待ち族”が増えている。自分で考え、行動できる人間を作っていかないと、サッカーチームもジリ貧になってしまう。だから、トップチームの選手はもちろん、スタッフも下部組織の選手も自分の考えを持ち、自分から行動を起こしてもらわないとダメだと考えた」

では、実際の育成の現場では、どのようにして「自立」を育む練習が行われているのか。取材した日のU18(高校生年代)の練習メニューは、前後半で大きく2つに分かれていた。

前半の1時間は、7〜8人でのボール回しが中心。一見すると遊んでいるようにも見えるが、役割の振り分けや細かなレギュレーションを変えることで、ウォームアップの中にさまざまな意味付けを加えていた。「遊びの中から、自己主張の方法や言葉の表現、仲間の中での自分の立ち位置などに気づいてもらうのが目的」(U18監督の佐藤一樹)だという。

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