FC東京は、こうやって「武藤」を育て上げた 選手の"自立"を促す、育成型クラブの極意

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FC東京の下部組織には、もう1つの源流がある。東京ガスが“サッカーの王様”ペレのサポートを受けて創設した「東京ペレフットボールクラブ」だ。その指導内容には、ペレの「サッカーマンたる前に社会人たれ」という言葉が色濃く反映されていた。

つまり、人間として独り立ちできているからこそ、周りが見える。周りが見えるからこそ、その中での自分の役割が見えてくる。ひいては、それが選手としての“幅”につながるという発想だ。

この思想が、権田たちの世代を経て、今のFC東京にも受け継がれている。社長の大金は「自立」を支える要素として「1人で何かを成し遂げるのではなく、コミュニケーションを取る中で気づくとか、整理できるとか、自分を確立していくということが大事」だと言う。

その影響は、高校3年生だった武藤にも及んでいたようだ。当時、トップチームへの昇格を打診された彼は、悩みに悩んだ結果、大学への進学を決めた。その理由を武藤は「トップチームに練習生として参加したときに自分の力不足を感じた。まずは大学で力をつけてから、プロの世界に挑戦したいと考えた」と振り返る。

慶応大学に進んだ武藤は、体育会ソッカー部に入り、日々レベルアップに打ち込んだ。特に力を入れたのが、筋トレや体幹トレーニングだったという。これが今の武藤の日本人離れしたフィジカルの強さにつながったことは言うまでもない。

「FC東京はほかのクラブチームより、トップに上がるハードルが高い。であれば、将来うちに帰ってくるということで、大学に行かせて、試合経験を積んでもらう。なおかつ、大学時代の友人は一生の付き合いになる。モノの考え方を含めて、社会人として成長させてくれる」(福井)。まさに、FC東京流育成の集大成が武藤という選手なのだ。

「武藤以後」をどう乗り越えるのか

だが、その武藤も7月には欧州へ旅立ってしまう。今期のチーム全19ゴールのうち、半分強の10ゴールが彼の得点(6月7日時点)。戦力の低下は否めない。影響は集客面にも及ぶ。今年のゴールデンウィークに開催したホームゲームは2試合とも4万人超の観客を集めたが、これもスター選手である武藤による部分が小さくない。

はたして、FC東京は「武藤以後」の時代をどう乗り越えていくのか。社長の大金は「人についた人気は、その人がいなくなるとなくなるのは当たり前。違うものを生み出していくことの繰り返しであり、そのための育成型クラブ。第2の武藤を作っていかないといけない」と口元を引き締める。そのための手も打った。今シーズンから新設したゼネラルマネージャー(GM)という役職だ。

これまでは、普及部長が小学生、育成部長が中高生、強化部長がトップチームの育成を担ってきたが、この3つを束ねる形でGMを置いた。その初代には、強化部長だった立石敬之が就任。育成の入り口から出口まで、彼が統括する体制に変えた。

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