FC東京は、こうやって「武藤」を育て上げた 選手の"自立"を促す、育成型クラブの極意

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今シーズンから新設のGMに就任した立石(撮影:今井康一)

初代GMは、FC東京を取り巻くサッカー界の現状をこう分析する。

「今、サッカーに関するほとんどの人材と資金と魅力が欧州一極に集中している。アジアに目を移すと、広州広大(中国)のようにオーナーがいくらでも資金を出すクラブがあったり、中東のように王族がおカネを出してくれるチームがある。でも、FC東京はそうではない。武藤のように突出した選手が出れば、欧州のクラブが連れて行ってしまう。いずれは引き止められる資金力と魅力を身につけたいが、今はマイナーリーグ化している現状を受け入れて、その中でどうやって勝ち抜くかを考えないといけない。そのためには、育成の量とスピードを確保するしかない」

育成の統括責任者として立石が心がけているのは、選手を「ミスが起きやすい環境」に置くことだ。ミスが起きたとき、なぜミスが起きたのかを選手に考えさせる。そうして、常に刺激を与えることで成長を促す。

では、ミスが起きやすい環境とは、どういう環境か。これまでに体験したことのないスピードや体格に出会わせることだ。高校生であれば、1つ上のカテゴリーである大学生と試合をさせる。これなら、それほどおカネをかけずとも成果を上げられる。

トップチームでレギュラーになれていない選手には、海外に行かせる。そのために、2013年にスペイン2部のクラブと業務提携を結び、若手選手を期限付き移籍で送り出している。当面はこの分野に資金を投じていく、と立石は言う。

「育成型クラブ」の最終目的地

去る者あれば、来る者あり。5月、FC東京の下部組織に期待の新星が入団した。2011年から世界最強クラブの1つ、FCバルセロナ(スペイン)の下部組織に所属していた久保建英だ。「プレーもそうだが、久保君の経験がほかの選手に影響を及ぼすことを期待している。世界との距離を計るうえで、いい“物差し”ができた」(大金)。

新たなスター候補とともにFC東京が目指す「育成型クラブ」の最終目的地とはどこなのか。大金の答えは「トップチームの全員が下部組織出身であること。そのチームがJリーグチャンピオンとなり、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)で優勝すること」。

その1つのメドが、東京五輪が開催される2020年だという。「東京で開催される五輪だから、FC東京から多くの選手に出てもらって、彼らがトップチームに上がってきて、ACLに勝てるとベストだ」(同)。

立石は、ここ数年のFC東京の育成を次のように振り返る。「武藤はいい教材。“ここまで来た”というところと“もっとやれた”という2つの意味で。足りないところは、オフザボール(ボールを持っていないとき)の技術。相手に下げられてスペースがなくなると、生きてこない。育成としては、もっとやれたのではないかと思う」。

そのうえで、こう言葉を継いだ。「僕たちが進化するために、強化において必要な要素は3つしかない。いいスカウト、いい環境(ハード)、いい指導者。そこにおカネをかけていく。バルセロナと比べればやれることに違いはあるが、必ずしも難しいことではない」。そう言い終えた立石の瞳に、育成型クラブを束ねる男の矜持と野心がほのめいた気がした。

(敬称略)

猪澤 顕明 東洋経済 記者

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いざわ たかあき / Takaaki Izawa

1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後、民放テレビ局の記者を経て、2006年に東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などに在籍。2017年に国内のFinTechベンチャーへ移り、経済系Webメディアの編集長として月間PVを就任1年で当初の7倍超に伸ばす。2020年に東洋経済へ復帰、「会社四季報オンライン」編集長に就任。2024年から「東洋経済オンライン」の有料会員ページを担当。

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