恐竜学者「化石がある」ならウズベキスタンへも まさかの"ボウズ"から一転、新種の恐竜発見
フェルガナ盆地での調査を終えた私たちは、手ぶらで帰ることになりそうだった。残念だが仕方がない。釣り人はボウズ(釣果ゼロ)のとき、魚屋に寄って帰るという。恐竜学者がボウズのときはどうするのか。
私たちは、首都タシケントの地質博物館に立ち寄った。ビルの間に挟まれた、石造りの小さな地質博物館だ。この博物館には、ウズベキスタン中央部のキジルクム砂漠で見つかった約9000万年前の恐竜化石がいくつか展示されている。私たちが野外調査をしたのは東のフェルガナ盆地だから、キジルクム砂漠はまた別の地域だ。
キジルクム砂漠は古くから恐竜化石がたくさん見つかる地域として知られている。ウズベキスタンは海と接していない内陸の国だが、白亜紀のウズベキスタンには海があった。その証拠に、キジルクム砂漠では恐竜化石と共に、サメの歯などの海洋生物の化石も見つかる。
当時、ヨーロッパは大小さまざまな大きさの島だったため、ウズベキスタンはユーラシア大陸の西の端にあって、海岸線沿いに恐竜たちが暮らしていたようだ。その恐竜たちが土砂に埋まり、今日、キジルクム砂漠で化石を見つけることができる。
実は東のフェルガナ盆地で野外調査をしていた時も、海の痕跡がたくさん落ちていることに気が付いていた。二枚貝やサメの歯の化石をたくさん見つけ、失われてしまった大海が確かにそこにあったことを実感した。遠い昔に思いを寄せ、貝化石を耳にあてた。砂がこぼれた。
この肉食恐竜は新種かも
展示室はこぢんまりとしていて、古い洋館の応接間のような、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。私たち以外、見学者はいない。
10月の西日が淡く差し込み、中央に展示されたハドロサウルス類(カムイサウルスのなかま)の骨格が淋しそうに輝いている。フェルガナ盆地でのダイナミックな景色との対比が鮮やかだった。
「え? これは大きい……」
私たちは、展示ケースの中におさめられた、ある化石標本に目を奪われた。長さ25センチほどの板状の化石なのだが、側面に歯槽と呼ばれる、歯を収める穴がいくつも空いている。壊れていて完全な骨ではないが、形からして、肉食恐竜の上顎のようだ。
恐竜名を記したラベルはついていない。どうも、ウズベキスタンでこれまでに知られている肉食恐竜よりも大きい気がする。
この標本のすぐ隣には、別の種類の肉食恐竜の顎の骨も展示されていた。こちらはティムレンギアと呼ばれる、ティラノサウルスのご先祖様の化石だ。既に論文が発表され、詳しく研究されている恐竜である。
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