日立をV字回復させた「ラストマン」魂の言葉 川村隆・日立製作所相談役に聞く(前編)

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――海外の企業では、そういう意識はすでに浸透しているものなのでしょうか

浸透しています。特に、かつて日本に「負けた」後に浸透したように思います。1980年代に世界中が日本に負けたわけです。それで世界は、「おかしい」と思った(笑)。「あんな資源のない、ちっぽけな国に負けるはずはない」「おかしい、おかしい」と、みんなそう思ったわけです。

「いちばんの基本は、きちんと稼いで、それを社会に還元するということなのだと思います。そこのところの意識も、日本では弱い」

それで、「日本に学べ」とばかりに、いろいろなことが起こりました。たとえば、GEもシーメンスも、「やっぱりこれではおかしい」と考え、戦略を立て直そうとしました。

そうして1990年から後、GEもシーメンスも、会社の中の考え方をだいぶ変えました。「昔から作っているものを、ずっと作っていればいいわけではない」「世の中の変化に応じて、自分たちが本当に世界をリードしていくものに集約していこう」ということを、随分やるようになったのだと思います。この動きは、GEみたいな有名な会社ばかりで起こったわけではありません。

米国のある農機具の会社でも、2000年ごろからは、「昔から先輩が作ってきたものをただ作って、お客さんが望むから続ける、というのではダメだ」と、変化の動きをガッと始めています。その会社の人たちの話を、米国で取締役会を開いたときに伺いましたら、やっぱり「2000年ごろに目覚めた」と言っているわけです。具体的には、次のように観察し、考え、行動したようです。

・前と同じことをずっとやっていても、もう成長はない。収益もゼロに近づいてきた。

・だから、製品の集約をやり、組織(人)も集約しよう。

・そして、会社の中の成熟産業から成長産業のほうに重心を移そう。

 

これが15年ぐらい前です。ただ「売り上げが立っていればよし」とするのではなく、きちんと利益を上げられるようになっているかどうかを考える。15年ぐらい前から、米国の普通の会社も、「売り上げだけでなく、利益を出して、それを社会に還元しよう」――そういうふうに会社の役割を考え始めていたのです。

・会社の役割は、社会に付加価値を戻すことである。

・そのための最良の方法は売上高を上げることではなく、営業利益や最終利益を上げることだ。

 

米国のほうが、これを目指して会社の中を作り直そうという気になっています。日本は、今やっと、これからやろうとしています。

――そのようなときに「大事にすべき考え方」はありますか?

端的に言えば「稼ぐ意識」です。米国では、営業利益が10%以上ある会社は多い。GEは15%前後ではないでしょうか。日立は今、やっと6%台まで戻したところです。ところが米国では、10年計画ぐらいで、いろいろな会社が数%台から10%超のところまで戻しているのです。

利益が出ると、できることは当然、増えます。設備投資はもちろんできるし、人材投資、人材教育投資もできる、研究開発投資もできる、税金も納められる、従業員の給料も上げられる、部品の材料の納入社に対する価格も交渉できる。

それらは全部、社会に対する付加価値として戻っていくわけです。会社はやはり、そうでなくてはいけません。社会に付加価値を加えていくというところがいちばんの目的なのです。

CSR(企業の社会的責任)の全うといっても、何もチャリティコンサートの支援をするとか、寄付をするだけじゃないはずです。いちばんの基本は、きちんと稼いで、それを社会に還元するということなのだと思います。そこのところの意識も、日本では弱い。「稼ぐのは、いかがなものか」などと言う人が、まだまだいるのです。

※後編は6月24日(木)に掲載予定です

 

KADOKAWAビジネス書籍編集部
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