そして岸田首相は、かつての安倍首相のように官邸主導を果たそうとした。新しい資本主義、デジタル田園都市国家構想など、政策革新の旗を掲げた。だが、それらが十全な政策として実を結ばないまま、政権は、新型コロナやウクライナ戦争への対応から花粉症対策・悪質ホスト対策に至るまで、そのときどきの課題への対症療法に終始した。
特に安全保障面では、防衛関係3文書の変更やウクライナ戦争への対応などは、安保重視の安倍政権の延長線上にある。つまり、岸田政権は、独自の政策の果実を提示できないまま、安倍政権の政策スタイルを踏襲して今に至っている。安倍元首相と安倍派への配慮が、政権の政策革新を阻んでいたのである。
苦境を乗り越える覚悟はあるか
だが、安倍首相が死去し、安倍派が解体へと向かいつつある現在、岸田政権にとっては、その発足時に掲げたような政策革新を果たしうる条件が整いつつある。そこで必要なのは、岸田首相自身の特定の政策に対する強い信念である。
筆者自身、官邸で首相に直接、新型コロナ対策の政府司令塔の案について説明をしたことがある。首相は重要なところでうなずくなど、説明内容を十二分に咀嚼していたが、政治手腕を駆使してこれを実現する熱意の片鱗はうかがえなかった。これまでの2年間は、そのときどきで重要と見定めたものについて、とりあえずの処理はしていたものの、政治リーダーとして内心深く刻んだ信念とともに特定の政策に思いを入れこみ、それを持続的に展開するものではなかった。
現在の苦境を乗り越えるには、首相の気迫がすべてであろう。かつて橋本龍太郎首相は、「火だるま」になっても行政改革をやり遂げると発言し、その言葉通り、諸々の反対を受け止めつつも、自身が議長となって省庁再編の原案を作り上げた。岸田首相は「火の玉」になっても政治資金問題に取り組むと発言したが、あの橋本首相に匹敵する覚悟があるかどうかが問われている。
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