ASEANと特別首脳会議・セレモニー以上の成果は? 半世紀の関係となる日本とASEANの将来

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FOIPの4つの柱のうち「『海』から『空』へ広がる安全保障」にからめて、日本がフィリピン沿岸警備隊に12隻の船舶を供与し、日本企業が2023年10月、フィリピン軍に警戒管制レーダーを納入したことに触れた。

ODAとは別枠で新たに創設した政府安全保障能力強化支援(OSA)による最初の協力案件として、フィリピン軍への沿岸監視レーダー供与を決めたこと、両国関係を「準同盟」に格上げする日比部隊間協力円滑化協定(RAA)の交渉を正式に始めることも明らかにした。

南シナ海の領有権問題をめぐり中国と対峙するフィリピン向けということもあり、演説の重点は安全保障面に置かれていた。一方、演説の冒頭と締めに引用された福田ドクトリンの第1の原則が「平和に徹し軍事大国にはならない」であることには触れなかった。

安全保障協力に前のめりだが

1960年から1970年代にかけて日本はベトナム戦争特需もあり、東南アジアへの経済進出を進めたが、その際、天然資源の収奪や消費財の洪水的な輸出、駐在員の横暴、買春団体観光などにより、「エコノミック・アニマル」「第2の侵略」と強く非難された。

田中角栄首相(当時)が1974年に歴訪したタイやインドネシアでは反日暴動が起きた。戦争の傷跡や記憶もまだ生々しく、日本の再軍備をアジア諸国が危惧していた。そこで福田ドクトリンは「心と心のふれあい」「対等なパートナーシップ」という他の2原則に先んじて「軍事大国にならない」との誓いを示したのだった。

半世紀を経て日本政府は防衛費を倍増させる方針を打ち出し、この地域でも安全保障という名の軍事協力に前のめりになっている。背景にはもちろん中国の台頭がある。

戦後78年間、日本が曲がりなりにも平和主義を維持したことへの信頼感もあり、ASEAN各国で大きな反発を呼んではいない。他方ASEAN全体として安全保障に関し、意思統一がなされているわけではない。

日本のFOIPに対してASEANは独自の「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」構想を掲げている。岸田首相は先の演説で、AOIPはFOIPと共鳴すると述べ、両構想を同期させたい考えをにじませた。

しかしASEANでは両者は似て非なるものとの受け止めが一般的だ。中国やロシアなどの覇権主義的な動きを牽制したい日本に対して、米中対立に巻き込まれたくないASEANが2019年に打ち出したのがAOIPだった。

対中対ロ関係においてASEAN内の温度差は大きい。親中派のカンボジア、ラオス。ロシアとの安保関係を頼みの綱とするミャンマーの軍事政権、ロシアに武器輸入を頼るベトナムなど事情はさまざまだ。

そこで日本政府は安全保障面ではフィリピンに肩入れし、同じく中国と南シナ海問題で対立するマレーシア、ベトナムもOSAの供与対象とするなど個別の関係強化に力を入れている。

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