《日本激震!私の提言》国民が日本再生を担う復興債と復興税を財源に--伊藤元重・東京大学大学院教
--東日本大震災の被害は甚大だが、今後、求められる政策は。
経済政策では、時間をどのように設定するかが重要だ。現在は人命の救助、原子力発電所の危機への対応に全力を尽くす段階。次に被災者の救済、被災地域の復旧が急がれる。その後、中長期で復興へ向けた国土計画、そのための復興資金をどうするか、財政全体の仕組みをどう見直すか、が課題になる。
中長期の復興は、ただ元に戻すようなものではなく、人口減少や高齢化が進展していく中で、21世紀の現実に合った形にコミュニティを創り直すものでなければならない。津波に襲われたのは過疎地で、高齢化の進む地域だった。より好ましい社会に変えていく仕掛けが必要だ。たとえば、街づくりをこれまでの工場や商業施設を中心としたものから、医療を中心としたものに変えていくことなどが考えられる。
一方でマクロ経済政策の舵取りは非常に難しくなっている。今回も円高が急激に進んだように、日本経済は脆弱だ。政府の債務が非常に大きく、今後、国債の価格がどうなるかわからない。いろいろな局面でマーケットとの緊張関係が出てくるだろう。日本銀行の大量の資金供給は緊急時の経済を下支えしているが、大量の流動性を市場に放出することになり、中長期で見ればマクロ経済政策の運営をさらに難しくする。
大震災の前は、日本経済が置かれている厳しい状況に対して感度が鈍く、適切な政策が取られてこなかった。兼業農家にも補助金をバラまいたり、社会保障会議をやると、医療・介護・年金関係者の予算の分捕り合戦になってしまったり、全体として長期展望が開けるような政策になっていなかった。
以前から、近いうちに国債の暴落、急速なグローバル化からの脱落、産業再編の中での倒産多発といった危機が来るのではないかと懸念していた。だがそれは予想外の厳しい形で来た。大震災を“目覚まし時計”の警告音として逆手に取り、緊張感を持った政策運営をすることが、今後の再生のうえで大きなカギになる。