《日本激震!私の提言》国民が日本再生を担う復興債と復興税を財源に--伊藤元重・東京大学大学院教

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■5年後にインフレとなる可能性を警戒せよ

--日本銀行に復興国債の引き受けを求める声もあるが。

すでに日銀は20兆円、財政赤字の半分に相当する国債の買い取りをしているという認識を持つべきだ。

日銀の役割は重要だ。金融市場は普通の状態のときには、日銀の庭先ともいえる短期の銀行間金利の操作をすれば、CP(コマーシャルペーパー)や社債、証券化商品などいろいろな金融商品の間でアービトラージ(裁定)が働いて、金融政策の効果が及んでいく。しかし、リーマンショックや大震災のような大きな変化があると、市場が分断され、アービトラージが働かない。それぞれの市場に日銀が資金を入れていくという異例の手段を取らざるをえない。

だが、そのことと、流動性をどんどん増やしてインフレにするというのとは別の話。復興財源は税のほうが望ましいし、割引国債を国民が引き受けてくれるほうが健全だろう。

私は、今のデフレ的な状況よりも5年後のインフレ的な状況のほうが怖い、と感じている。国際環境を見ると、いずれ日本がインフレに巻き込まれるリスクが大きいと思われる。資源価格が大きく上昇しているので、新興国はインフレになる。心配すべきは、これが米国、欧州の長期金利に跳ね返ってくることだ。そうなれば、日本の長期金利も上昇するおそれが強い。これまでは米国も欧州もデフレ対応の政策を取ってきたが、すでに欧州中央銀行はインフレ対応に姿勢を転換している。

インフレ期待が生じると、すぐに物価は上がらずに、先に金利が上がってくるのが怖い。これは銀行の財務を大幅に悪化させ、企業の資金繰り難につながり、為替などほかの市場にも大きな変動をもたらす。そういう悪いインフレになる可能性が高い。今回の震災によるインフラの破壊に伴って、供給サイドが締まってくる一方、復興需要が発生し、需要サイドはそれほど減らない可能性が高い。生鮮食品や資源など一部の商品は価格が上昇してくるだろう。復興資金の財源の話を金融政策と結び付けるべきではない。

いとう・もとしげ
1951年生まれ。東京大学経済学部卒業、米国ロチェスター大学経済博士号取得、96年から現職。政策分析ネットワーク代表、総合研究開発機構(NIRA)理事長。近著に『ゼミナール現代経済入門』(日本経済新聞出版社)。

(週刊東洋経済2011年4月2日号掲載 記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

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