柴田理恵さん「東京-富山」遠距離介護を決めた胸中 「介護をするうえで心がけている」大切なこと

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母が元気な頃は、普通に家に帰って、普通に一緒にご飯を食べて、また嵐のように東京に戻る感じでしたけど、老いが進んだ今は、一緒に過ごす時間が宝物のように思えてきます。

もし、母と同居してずっとべったり介護をしていたら、「ああ、大変だ、つらい」と母に対して嫌な感情を抱いていたかもしれない。今のような気持ちのゆとりはなかった気がするんですよ。

親子がほどよい距離感で居られるためにも、遠距離介護を選んで良かったなと思います。

子どもからの本気の言葉は親の生きる力になる

――柴田さんは介護をするうえで心がけていることはありますか。

親に対してかける「言葉」です。「今日はなんだかいい顔してるね!」とか、「いつまでも元気で長生きしてね!」とか、ポジティブな言葉を投げかけるようにしています。

『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法 (単行本)』(祥伝社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

やっぱり、他人からいくら「元気になってくださいね」「大丈夫ですよ」と言われても、心に届きにくいと思うんですよ。

母もそうでしたが、とくにお年寄りの方は、「人に世話になりながら生きるのは申し訳ない」という気持ちが出てきやすいものです。

だから、私はいつも「お母さんは生きとってくれるだけで幸せだよ」「私、お母さんが死ぬのは嫌だもん。ずっと元気でいてほしい」と、はっきり言うようにしました。

すると、母が「そう?」と聞き返すので、「そうに決まっとる。さみしいから、絶対に先に私を置いていかんといて!」と強調すると、「わかった。置いていかんよ!」と力強く返事をしてくれるようになりました。

それ以来、母から「生きてて申し訳ない」という気持ちが減っていった気がします。

――子どもからの言葉は、親にとって「生きる力」になると。

絶対なります。「そんなことで?」と思われるかもしれないけど、それが一番大事なんです。

遠距離介護を始めて6年が経ちますが、家族にできることと、他者(医療や介護のプロ)にできることと、役割は別なんだとわかり始めました。

究極を言えば、親と長い時間、一緒に居なくてもいいし、身体介助もプロの方たちにお任せしていい。

だけど、言葉だけは本気で、面と向かって伝える。それが子どもにできる、何よりの親孝行なんじゃないかと気づいたのです。

伯耆原 良子 ライター、コラムニスト

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ほうきばら りょうこ / Ryoko Hokibara

早稲田大学第一文学部卒業。人材ビジネス業界で企画営業を経験した後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に。就職・キャリア系情報誌の編集記者として雑誌作りに携わり、2001年に独立。企業のトップやビジネスパーソン、芸能人、アスリートなど2000人以上の「仕事観・人生哲学」をインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。両親の介護を終えた2019年より、東京・熱海で二拠点生活を開始。Twitterアカウントは@ryoko_monokaki

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