ポテチのパリパリ音で「味わい」変わる驚きの事実 イグノーベル賞を受賞したおもしろすぎる研究

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こうしてポテチの新鮮さとパリパリ度を評価してもらったところ、同じポテチでも音量を大きくしたり高音域を強く出したりした時のほうが、15%程度かみごたえが強く、新鮮に感じられることが分かった。音が、食べ物の味わいを変えた、というわけだ。

食は五感で楽しむもの

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リンゴ、セロリ、ニンジン、クラッカーなど、カリカリ、コリコリした食べ物なら同様の効果が得られるという。また、別の研究者たちがこの発見をちょっといじり、ポテチの音をガラスが砕ける音に差し替えたところ、被験者の顎が固まってしまった、なんてこともあったそう。

聴覚以外の五感も味の感じ方に影響しており、スペンス教授は研究を通して食品会社の商品開発やマーケティング戦略を手伝ったり、有名シェフとコラボしたりしている。これまでに行った研究として次のものがある。

・いちご味のムースは、黒い容器で出されるよりも白い容器で出されるほうが10%甘く感じる。
・コーヒーは、ガラスのコップから飲むよりも白いマグカップで飲むほうが2倍ほど濃く感じる。
・ヨーグルトの容器を70グラムほど重くすると、満腹感が25%アップする。
・食事の際に高い音域の音楽を聞くと食べ物を甘く感じ、低い音域の音楽や金管楽器の音を聞くと苦く感じる。
・人は、アルファベットの「k」に苦いイメージを、「b」に甘いイメージを抱く。

他にも五感以外で、食事をする時の体験そのものが美味しさを左右するとして、こんな知見も集めてきた。

・食事に出かけた時、グループの中で最初にオーダーする人が一番食べ物を美味しく感じる。
・2人で食事をする時は1人の時よりも35%多く食べ物を食べる。これが4人の場合は75%にまで増える。

ここまで言われると、「食べ物は味がすべて」というわけではないことがよく分かる。ならば巷でよく聞く「見た目は悪いけど味は良い」というのは、ただのお情けから出た言葉なのだろうか。

そして最近よく見かける「フォトジェニック」な食べ物は、巧妙に的を射ているようにも思える。我が家でも近々、フォトジェニックにスーパーのお刺身を並べて、波の音でも流しながら食べることにしようか。

五十嵐 杏南 サイエンスライター

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いからし あんな / Anna Ikarashi

1991 年愛知県生まれ。カナダのトロント大学で進化生態学・心理学を専攻(学士)。休学中に半年間在籍した沖縄科学技術大学院大学で執筆活動をはじめる。同大学卒業後、イギリスのインペリアルカレッジロンドンに進学。科学の専門家と非専門家をつなぐことを目的とした学問「サイエンスコミュニケーション」の修士号を取得。同カレッジ在学中に、NHK CosmomediaEurope やBBC でリサーチャーを務める。日本帰国後は京都大学の広報官を務め、2016年11 月からフリーに。2019 年9 月、一般社団法人知識流動システム研究所フェロー就任。

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