リピート率75%「新感覚スーツ」を生んだ発想 ユニクロも嫉妬する元水道会社の"非常識"

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その後、同事業をスピンアウトさせ起業。全国に拠点を増やし、水道事業という地味な領域ながら旧帝大やMARCHなどの学生を次々に採用する異色のベンチャーとして存在感を高めていった。

順調に成長曲線を描く一方で、水道工事で着用するダボダボの作業着は、ファッションに敏感な若手社員から「ダサい」「電車に乗るのが恥ずかしい」と不満の声が上がっていた。その声を受け、関谷社長は2016年に「スーツのようなスタイリッシュな作業着」を開発する社内プロジェクトを立ち上げる。

作業服のイメージを変えたかった

その関谷社長の頭の中には、小学生の頃の父の記憶があった。

「クリスマスの日に、家族でイタリアンレストランに食事に行ったんです。そしたら、遅れてきた親父が汚れた作業着のまま店内に入ってきた。それが子ども心に恥ずかしくて……社会課題といっては大げさかもしれないけど、現場で一生懸命働く作業員を『ブルーカラー』と侮蔑するような世間の風潮や職業観を壊したかったんです」

父親との思い出がスーツを作るきっかけになったと話す関谷社長(写真:尾形文繁)

衝動に突き動かされた関谷社長は、リーダーに抜擢した若手社員とともに、その社内プロジェクトに心血を注ぎこむ。大手素材メーカーなどから何十種類もの素材を取り寄せ、サンプルを試作する。しかし、どれも現場の作業員には「動きにくい」と不評を買った。

「当たり前ですが、いくらカッコよくても作業着として機能しなければ作業員たちは着てくれません。でも、水道工事の現場にも耐えうるタフさや耐水性があり、それでいて通常の作業着以上に着心地がいい……その条件をすべてクリアする素材にはなかなか巡り合えませんでした。もっとも、私たち以外にそんな素材を求めている人はいませんから、当たり前なのですが(笑)」

世の中にないのなら、自分たちで新しい素材を作ろう――関谷氏は、大手素材メーカーに「スーツのような作業着」のコンセプトを伝え、開発協力を呼びかけた。しかし、そもそもが社内プロジェクトなので、一定量以上のロットは保証できない。首を縦に振ってくれるメーカーはなかなか現れなかった。

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