海外の先進企業はなぜ哲学者を雇い始めたのか? 「哲学では飯は食えない」はもはや過去のこと
例えば、2020年12月、米グーグルは同社の大規模言語モデルに含まれる差別的バイアスを指摘した、AI倫理研究者ティムニット・ゲブルを解雇しました。論文の共著者から名前を削除するよう要求されるも拒否したためです(彼女はAI開発現場の白人男性の比率が高く、多様性がないことも問題視していました)。
それに抗議したマーガレット・ミッチェルも解雇されてしまいます。その結果、研究者コミュニティの離反やグーグルからの資金提供の拒否、社員2600人以上による抗議署名、抗議辞職などが起きたのです。
日本企業が哲学や倫理学を正しく実装するには
一方、倫理学者をポジティブに使おうとした例もあります。
2021年、ツイッター(現X)は倫理的AIをつくるために、ビッグテックに最も批判的なAI倫理学者を雇用しました。ツイッターのMETA(Machine Learning, Ethics, Transparency and Accountability)チームは、「責任ある機械学習」を同年の主要な優先事項に設定させたのです。
ところが、2022年10月、イーロン・マスクがツイッターを買収したあと、METAチームは解散されたと報じられました。グーグルやツイッターの事例は、企業活動と倫理的な要求が葛藤を起こすことがあることや、哲学者や倫理学者が雇用されても企業が倫理的な正しさを優先するとは限らないことを示しています。
それどころかエシックスウォッシュ(見せかけの倫理)など、哲学や倫理学が自社事業の正当化などに使われる可能性もあるでしょう。しばしば企業活動と倫理的な要請は葛藤を起こしますが、哲学者や倫理学者を起用すれば問題そのものが解決するわけではありません。
ここには、「インハウス・フィロソファー」というあり方の功罪があります。「インハウス(企業専属)」であることにより、哲学(者)が批判的な機能を果たさず、自社やクライアントの正当化に悪用されてしまう危険性があるからです。
海外での動向に対して、日本企業はどのように哲学や倫理学を取り込んでいくか、よく検討していく必要があります。私自身は、特定の専門家が助言・監修するかたちより、自社が大切にする規範や理念を掘り下げ浸透させていく、日本企業に適した哲学実装が望ましいと考えています。
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