薬の保険適用で変わる「肥満は自己責任」の考え方 運動や食事でもやせられない「病気」という認識

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この結果には、多くの読者が納得できるのではなかろうか。よほど意志が強い人でなければ、長期にわたり食事・運動療法を続けるのは難しい。少なくとも筆者には無理だ。

筆者は高血圧があり、3カ月に1度、血液検査を受けているが、食事を節制するのは検査結果を知ってから1~2週間程度だ。それを過ぎると元に戻ってしまう。筆者には、「人生を楽しみながら、健康体重を維持できる」という肥満治療薬を選択するほうが魅力的に見える。

セマグルチドの承認は、わが国の多くの肥満患者にとって福音だ。今後、処方を希望する人が急増するだろう。

痩せた人の「ダイエット」は対象外

ただ、ここでご注意いただきたいのは、安全に減量できることが確認されているのは、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を合併するBMIが27以上の人か、このような合併症にかかわらずBMI35以上の人たちだ。

肥満で悩む多くの中高年は、この基準を満たすかもしれないが、単にやせたい、ダイエットしたいと希望する若年者には当てはまらない。

彼らへの有効性や安全性は、今後の研究にゆだねられる。もし、ご希望の方がおられたら、ネットでの個人輸入などで購入することなく、まずは医師に相談いただきたい。最新の研究成果を踏まえ、親身になって相談にのってくれるはずだ。

これまで肥満は、過食や運動不足の結果と考えられ、患者は暗に自己規律の欠如を批判され、肩身の狭い思いをしてきた。ところが、近年の研究により、肥満には遺伝や環境など、さまざまな要因が影響していることがわかり、肥満を高血圧や高脂血症と同様に扱おうと考え方が変わってきた。

高血圧や高脂血症も、過食や運動不足が影響するが、難治例に対して薬物療法を行うことを問題視する人はいないだろう。治療薬の登場により、今後は、肥満もそのような生活習慣病の1つと扱われるようになるだろう。

肥満患者にとって朗報である。 

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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