肝機能の検査値、今は「ガンマGTP」だけ見てもダメ 肥満や糖尿病で生じる肝臓病が新たな問題に

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現在のALT、ASTの基準値は、厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム」で決められている。保健指導判定値がALT、ASTともに「31」で、受診勧奨判定値がそれぞれ「51」となっている。

このALTに関しては2023年、大きな動きがあった。

日本肝臓学会が6月に奈良で学会を開催し、「奈良宣言2023 STOP CLD(Chronic liver disease:慢性肝臓病)」を打ち出した。そしてそこで、「健康診断でALTが30を超えた場合、かかりつけ医に受診を促す指標とする」と発表したのだ。

なぜ、51という数値を厳しくして、30にしようと考えたのか。そこにはこんな理由があるようだ。

肝臓病で代表的なのが肝がんだ。全国がん登録罹患データによると、日本の肝がんの罹患率は2016年に対人口10万人当たり33.7例だったが、それ以降減少し続け、2019年には同29.6例に低下している。

死亡者数は1990年代から急増し、2000年代中頃には約3万4000人に達した。その後は少しずつ減っていき、2022年の人口動態統計では「肝および肝内胆管のがん」の死亡者数は2万3621人となっている。

これは、この国の肝がんの最大の原因だった、ウイルスの感染によるC型肝炎に対する抗ウイルス治療が大きく進歩したためだ。

代わって台頭してきているのが、NAFLDやNASHである。

リスクの高い人を早期で見つける

奈良宣言ではウイルス感染とは別の指標となる「ALT30超」を、健診の肝機能検査項目での具体的な目安として打ち出して、慢性肝臓病、ひいては発がんリスクの高い患者をいかに早期に見極め、効果的な対策にしようとした、というわけだ。

髙見医師も「私が臨床現場についた頃、肝がんといえばB型やC型のウイルス感染が主な原因で、肝がん患者の7割がウイルス性肝炎だった。ところが、2000年初頭頃から、脂肪肝を由来にした、私たちは“Non-B・Non-C”と呼んだりしている肝がん患者さんが急速に増えている」と話す。

そこで、健診の血液検査でALT30超という指標を設定して、患者をスクリーニング(ふるい分け)し、必要であれば早期に治療を開始して、肝炎や肝硬変、さらには肝がんの予防をしていこうという学会の方針には納得感がある、という。

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