いい質問者は論争せず窮地に追い込まない--『「質問力」の教科書』を書いた御厨 貴氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)に聞く


──それだけでは、内容の確認が甘くなりませんか。

質問のときに大事なのは、相手をどうにもならないような立場に追い込むのを避けることだ。内容が違うと言うなら、何も俺の話を聞く必要はないと、けんかになってしまうとまずい。そこは、面談の終了近くで、この部分は世の中ではこういわれているとか、当時の活字になったものにはこう書いてあるとか、言ってみる。それでも、間違ってないと言う人があっても、それ以上は追及しない。それでいいと思っている。真実かどうかは新聞記者やそういうことを得意とする方々がやればいい。それも含めて、歴史資料、意思決定のケーススタディとして、利用価値があると思っている。

──小泉純一郎氏(元首相)に対しては厳しい判定です。

小泉氏には、オーラルヒストリーは難しい。ワンフレーズ・ポリティックスが得意な人だったからだ。あの人の言葉の表現は状況との緊張関係の中から出てきている。オーラルヒストリーのような昔話には向かない。たぶん彼自身、自分のやってきたことを忘れているのではないか。一回一回が興奮だったから、本当に覚えていないということもありうる。5年5カ月の政権も、いちいち前のことを覚えていないから続けられたのかもしれない。

──米国大統領はすぐ回顧録を出します。日本は押し黙る。

これは文化の違い。米欧は言ったが勝ちだからだ。ニクソン元大統領は四面楚歌で辞めて、最後の回顧録では偉大な大統領になる。回顧録を4回書き、最初のうちは非常に低姿勢で、だんだん偉くなっていく。日本でも、中曽根康弘氏は何回も回顧録を書いている。そうすると、同い年で初当選同期の田中角栄元首相の扱いが変わる。最初の頃の回顧録では田中角栄を仰ぎ見る存在であるかのように書いたが、ある時期から対等、最近のものでは、自分は政策で勝負し、完全に上位だったというように書かれている。そういう人もいる。

──今、ぜひ話を聞きたい人は?

絶対できないだろうと思うが、美智子皇后。あれぐらい宮中に精通している人はいない。平民出身で苦労し、ついに「祈る天皇」を演出するところまでいった。秘密があることが天皇と皇室を成り立たせているのだが。(聞き手・本誌:塚田紀史)

みくりや・たかし
1951年東京都生まれ。東京大学法学部卒。東京都立大学法学部教授、ハーバード大学客員研究員、政策研究大学院大学教授などを経る。「オーラル・ヒストリー」の手法を用いて、政治家や行政官、実業家の聞き取り調査を行う傍ら、テレビや雑誌のコメンテーターや解説者、司会者を務める。

『「質問力」の教科書』 講談社 1365円 207ページ

  

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