いい質問者は論争せず窮地に追い込まない--『「質問力」の教科書』を書いた御厨 貴氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)に聞く
当事者にインタビューを重ねて真実をあぶり出すオーラルヒストリー。この「公人の口述記録」を手掛けて二十年余。時代を画した政財界の大物や官僚から「聞き出す力」はどう培われたのか。
──「質問力」は熱意と感性ですか。
私の場合、「後藤田体験」が原体験になった。後藤田正晴氏(元内閣官房長官、元警察庁長官)とは計27回、60時間ほど面談し、『情と理』という本になっている。いつも真剣勝負だったが、無理せず力まず、真摯な粘りを見せたからこそ、その胸の内を明かしてくれたのだろう。
──この本には質問者の手の内が書かれていると……。
防御の仕方が体得できるという話もあるが、そんなことはない。質問は最終的にはその人の資質に尽きる。感性がない人が部分的にまねしても成功するとはかぎらない。いろいろなケースで応用する力もいる。
──堤清二氏(元セゾングループ代表)とはやりにくかったようです。
面白かったが、堤氏は逃げる。経営の話をして危なくなると政治の話に、政治の話をしていて危なくなると、今度は文化の話へと逃げる。そこで、政治学者の私に加えて経営の専門家、文化の専門家と3人で聞き手になった。堤氏との面談は中断していたが、近く再開できそうだ。
日本の1970年代から80年代にかけて、セゾン文化一色だった時期があった。その時代背景を解明したい。それには彼に語ってもらわなければならない。ほかの人にもアプローチしたが、全体を知っているのは堤氏だけといっていい。
──中内功氏(ダイエー創業者)ともお会いになった。
中内氏からのアプローチだった。ぜひやってほしいと。しかし猜疑心の強い人で、何をどのようにまとめようとしているのか、いつも確かめてくる。こちらは純粋に、経営史や経営学の専門家とともに話を聞いた。