2014年半ば頃には、為替レートが円安になっても、日本からの輸出がなかなか増えないことがたびたび話題になった。これを理由にして、「金融緩和強化など総需要刺激政策を繰り出しても、経済活性化をもたらさず、資産価格を過度に変動させるだけだ」といった、金融緩和による弊害を指摘する議論もあった。
実際には、為替レートの変化が、自動車や機械部品などのモノの輸出価格や販売価格に影響するかは、企業の価格戦略に依存するため、輸出の押し上げ効果には不確実な部分がある。
通貨安が進んでも、現地での販売価格を大きく変えずに、マージン拡大を優先させる価格戦略をとった日本企業も多かったようだ。このため、モノの輸出動向は、米国を中心とした世界経済の動向に左右される側面が大きく、2014年半ばから米経済復調の後押しによって、円安効果があらわれた。
観光産業はアベノミクスで「サービス輸出」を満喫
一方、日本の食文化、サービス、景観、安全などの、「独自の付加価値」を提供する観光業においては、製造業ほど価格戦略は複雑ではない。
アベノミクス発動前の超円高が修正され外国人旅行者にとって、その付加価値に見合った価格帯に費用が低下すれば、それが訪日客拡大につながり、観光業という「サービス輸出」の拡大がストレートにおきる。
2005~07年の前回の円高修正局面においても、訪日外国人は10%以上増え、アジアやオーストラリアからの観光客が増えたことが話題になった。
当時はFRBが利上げを続けたこともあり、割高だった通貨円の修正が進んだ。日本の価格競争力が戻り、高成長を謳歌して所得水準が高まっていたアジアや欧米人の、日本への旅行に対する潜在需要が顕在化した。
そして、2013年以降は、アベノミクス発動による日本銀行の金融緩和の強化によって、日本の観光産業に対する海外からの潜在需要を、能動的に顕在化させた面が大きい。「爆買い」という言葉が象徴するように、外国人旅行者による消費拡大は、日本の景気回復を後押ししている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら