現役マタギが怖れる「クマ襲撃」に起きている異変 山から人里に下りてきたクマは習性が変わる

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――山の話に戻ります。北海道のヒグマの中には、エゾシカの子や、弱ったシカなどを狙って食べる肉食の個体の存在が論文などで明らかになっています。阿仁周辺の山のツキノワグマの中にも他の動物を餌としているようなクマはいるのでしょうか。

松橋:多分、数は少ないけどいると思いますね。マタギ衆で巻き狩りをやっていると、カモシカが急に飛び出してくることがあります。クマに追われて逃げてきたんですよ。そういう場面を何度も見ているから、カモシカを狙っているクマがいるのは間違いないと思います。そういう個体の子どもが、それを学習して引き継いでいく可能性もあります。ただ、大半のクマは草食ですよ。

――『第十四世マタギ』には、勢子を務めていた若い頃の時幸さんが、手負いのクマに襲われ、山刀(ナガサ)1本で対峙する場面があります。松橋さんご自身はそういう体験はありますか。

松橋:そこまで緊迫した場面はありませんでした。大きなケガをしたこともない。ただ、1人で山に入っているときに、クマに出くわすことは何度もありましたね。たいていは向こうがこちらの存在に気づいていません。本来はおとなしい動物ですから、そういう時はそっと声をかけてやるんです。「おい」とか「こら」とかね。そうするとこちらに気が付いて、おとなしく去っていきますよ。

避けるべき危険な局面

――とはいえ、中には凶暴な個体もいるのでは?

松橋:昔からそうですが、人に撃たれて傷を負った手負いグマと子持ちグマは危ない。子グマを見かけたときは、絶対に近寄らず、静かに引き返すことにしています。子どもを守ろうと母グマが猛然と襲い掛かってきますからね。

あと、危ないという意味では、仕留めたと思ったクマに近づくときですね。倒れているクマの近くまで確認に行ったときに、突然、そのクマが起き上がって飛び掛かってくることがあるからです。だから、確認の瞬間がもっとも緊張しますね。

――最後に、気象変動なども含めた最近の生態系の異変について、どうお考えですか。

松橋:温暖化や異常気象で山の生態にも大きな変化が出てきています。そこに人口減少、高齢化といった社会的な現象が加わり、山や森がきちんと維持されなくなってきていて、その結果として生態系の異変につながっているように思います。

岩手に親戚がいるんですが、あちらではシカが増えすぎて被害が拡大して困っているといいます。ここらの山もどうなるか。このまま手入れが行き届かない状況を放置していったらどうなってしまうのか。マタギ文化を継承しながら、山の生態系にも注意を向けていきたいと思います。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログでは、最新の病状などを掲載中。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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