現役マタギが怖れる「クマ襲撃」に起きている異変 山から人里に下りてきたクマは習性が変わる

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――自然現象に加え、地域の人口減少、狩猟者の減少などが複合的に絡み合った結果ですね。マタギの世界のことを伺います。猟の方法は先代のころと比べ大きく変わってきていますか。

松橋:さっきも言いましたが、マタギも高齢化し、後継者を見つけるのが困難になってきています。マタギはみんな兼業です。そのためマタギ衆が集まって“巻き狩り”に出かける機会が減りました。昨年は10人ぐらい集まって出かけたのは3回ほどです。あとは私が1人で10回ほど猟に出ました。巻き狩りで仕留めたクマは2頭だけです。

今も残っている猟の儀式

――マタギの猟では昔からいろんな儀式がありますが、現在でも残っているものはありますか。

松橋:クマは山神様からの授かり物なので、仕留めたクマの霊を山神様の元に送り出す「ケボカイ」は今でも必ず行っています。

――先代・松橋時幸さんの一代記である『第十四世マタギ』(甲斐崎圭 著)には、ケボカイと解体は里の集会所で行われていました。今はどうですか。

松橋:人里まで下ろすことはなくなり、今は山でケボカイを行い、その場で解体しています。解体後はマタギ勘定で巻き狩りの参加者に平等に分配します。(解体後の肉などは)各自がリュックに詰めて持ち帰ります。

――先代の時代は、夜明け前に里から歩いて猟場に向かい、数時間かけて持ち場につくといった描写がありましたが、最近はどう変わりましたか。

松橋:今は林道がかなり先まで延びていますので、集合場所のキャンプ場近くまで車で行き、そこから猟場までは歩いて1時間ほどですかね。ずいぶんと楽になりました。

――マタギの世代交代というか、若い人は入ってきていますか。

松橋:後継者難は続いていますが、最近になってマタギに憧れたといって、こちらに移住してくれた若者が何人かいます。こちらに来て狩猟免許を取りましてね。マタギの大半は40代、50代以降ですが、一番下は29歳の若者がいます。あとは30代も。うれしいですね。マタギ文化を後世に継承していってほしいものです。

マタギ
若手にアドバイスを送る松橋さん(撮影:写心家 山口裕朗)
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