「脱アメリカ依存」進める湾岸諸国の巧みな交渉術 多極化する世界で「存在感」が増している

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イラクやアフガニスタンにおけるアメリカ軍派遣の代償も大きかった。7000人もの死者を出すことになり、ベネフィット以上にコストがかかってしまった。オバマ大統領は2013年に「アメリカは世界の警察官ではない」と明言し、アメリカの直接的な脅威にならなければ介入を避けるようになった。このことは、中東関与の低下に拍車をかけた。

アメリカの影響力が低下していく一方で、湾岸諸国は中国やロシア、トルコ、インドとの関係を強化している。これらの国はアメリカに代わって湾岸諸国の安全保障を担う存在になるわけではないが、将来にわたる安定と国益を追求するために、新しいパートナーとの関係づくりを積極的に進めている。

積極的かつ戦略的にバランスをとるUAE

――具体的に注目している国の動きはありますか。

ひとつは、UAEだ。中東有数の経済国であるUAEにとって、軍事的緊張の高まりは最も避けなければならない事態だ。イランを中心に中東地域の緊張が強まる中、UAEは融和策に舵を切った。2020年にはイスラエルと国交を樹立し、その後イランやカタール、トルコなど対立していた周辺国との関係も正常化させた。いまやUAEは、地域の主要国と積極的かつ戦略的にバランスをとっている。

また、アメリカの同盟国でありながら、同国と対立する中国やロシア、シリアとの外交的・経済的関係も拡大している。例えば対中関係では中国製の5G(第5世代移動通信システム)技術を導入し、アブダビの港湾では中国による軍事施設の建設を進めていると報じられている。アメリカはUAEとこれらの国々との関係に懸念を示し、是正の申し入れをしているが、UAEは意に介していない。

アメリカと距離を取りつつあるUAEとは対照的に、中東とアメリカをつなぎとめる役割を果たしているのが、カタールだ。カタールは豊富な外交ルートを通じて、国際社会と中東の問題を調整している。アメリカとタリバンの和平交渉を仲介したし、イランと欧米との核合意再建に向けた交渉も支援している。アメリカはカタールの役割に大いに期待している。

一方でカタールは、中国やロシアとの関係も重視しており、グローバル・サウスへの目配りも忘れていない。中国は2022年にカタール産LNGの最大輸入国になり、最近でも中国企業とのLNGの長期契約が結ばれている。ウクライナ問題については、同国の主権と領土に関する一体性の回復を求めており、外交的・平和的手段による問題解決の必要性をプーチン大統領に直接訴えた。2023年10月には、ロシアに連れ去られたウクライナ人の子供の解放に、カタールが一役買った。

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