オバマ氏は軍事・経済的に台頭してきた中国を念頭に、中東における軍事プレゼンスを縮小し、東アジア情勢への対応に力を入れようとした。直前の2011年初頭に起きた「アラブの春」と呼ばれる中東・北アフリカ地域の民主化運動は、結果的にイランの影響力が強いシリアでの内戦や軍の権力強化を招いたが、オバマ氏は当時これを楽観視していた。
そのため、2015年に結ばれたイラン核合意とその後の対イラン制裁の解除は、湾岸諸国にとって新たな不安を与えた。実際、この頃からイランと湾岸諸国の緊張は急激に高まった。オバマ政権の中東政策を否定していたトランプ政権(当時)も、取り組みは不十分だった。
トランプ氏は、イランに対して「最大限の圧力」をかけるとしていたにもかかわらず、2019年にサウジアラビアの石油施設やホルムズ海峡でタンカーが攻撃された際、イランへの報復を躊躇している。
湾岸諸国の不安を現実化させたのが、バイデン政権だ。2021年にアメリカ軍はアフガニスタンから撤退したが、その後過激派組織タリバンが政権を奪取して同国は混乱に陥った。2022年1月に起こったイエメンの武装勢力フーシー派によるアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビへの攻撃の際も、バイデン政権の反応は鈍かった。この攻撃は後に「UAEの9・11」と同国政府関係者が呼ぶほどの衝撃的な事件だった。
バイデン政権はサウジアラビアに対しても、2022年半ばに対フーシー派の防空作戦で迎撃用パトリオット・ミサイルが底をつきそうになった際、速やかな追加供給に応じていない。このようにアメリカが湾岸諸国を含む中東への関与を避け、安全保障から手を引くことで、湾岸諸国自身も戦略を変更せざるを得なくなっている。
対応が”ちぐはぐ”に映るバイデン政権
――アメリカはなぜ、中東への関心を失ったのでしょうか。
アメリカが2000年代後半のシェール革命によって、エネルギーを自給自足できるようになったことが大きい。これにより、アメリカにとってエネルギー供給地域としての湾岸諸国の重要性は低下し、中東への関心が薄れた。
バイデン政権が気候変動問題に力を入れているという点もある。政権発足当初から、バイデン政権は脱炭素化の取り組みを大々的に掲げており、そのことは化石燃料を生産する産油国にも必然的にプレッシャーになった。
ただ、ロシアによるウクライナ侵攻によって世界的なエネルギー供給不足が起き、アメリカ国内でもガソリン価格が高騰するとバイデン氏は態度を一変させている。
ガソリン価格の高騰は有権者の支持に大きく影響するため、バイデン政権は人権問題で対立していたサウジアラビアに石油の増産を働きかけた。湾岸諸国に対してプレッシャーをかけていた気候変動や人権問題より、アメリカ国内における有権者の票のほうが重かったとはいえ、ちぐはぐな対応に映る。
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