「脱アメリカ依存」進める湾岸諸国の巧みな交渉術 多極化する世界で「存在感」が増している

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湾岸諸国はアメリカとの関係を相対化する中で、自らもグローバル・サウスの一端であるとの姿勢を示すようになった。2023年8月には、中東の4カ国(サウジアラビア、UAE、エジプト、イラン)のBRICS加盟が発表されている。世界で分断と多極化が進む中で、流動化する国際情勢を象徴した出来事といえるだろう。

――湾岸諸国が外交・安全保障戦略を多角化することで、これからアメリカとの関係はどのように変わっていきますか。

湾岸諸国にとってアメリカが戦略的パートナーであり続ける構図は変わらない。輸入している武器の多くはアメリカ製であり、物理的に安全保障で頼れるのはアメリカしかないという考えがある。湾岸諸国が戦略の重心をずらしているのは、米中対立や世界的な分断状況を利用しながら、アメリカに自らの要求をのましていきたいと考えているからだ。

例えば人権問題一つとっても、君主体制を維持したい湾岸諸国にとってはアメリカからの介入を避けたい。脱炭素化の取り組みにおいても、性急に進めたくはないだろう。外交的な生存戦略の巧みさを増すことで、湾岸諸国は自らの体制と国家の安全を確保しようと考えているはずだ。

日本なりの貢献を示すことも大切

――湾岸諸国は、日本にとってもエネルギーの供給元として重要なパートナーです。混乱する中東情勢を受けて、日本としてはどのような関係構築が求められるでしょうか。

日本は依然として石油の9割を中東から輸入しており、湾岸諸国はその中心だ。しかし、日本が湾岸諸国において、お得意様で尊敬されていた時代は過去のものになりつつあり、最近では中国や韓国、インドの台頭の陰でプレゼンスを低下させている。日本が湾岸諸国との関係や、中東の安定性を重視しているというメッセージは、常に発信され、相手側に届かなければならない。

その意味で、2023年7月の岸田文雄総理による湾岸歴訪や、同年9月に行われた日・GCC外相会議の開催などでは、外交的な成果が得られている。イスラエル・ガザ衝突に際しても、上川陽子外相が10月にカイロ和平会議に出席し、日本の関与を示したことは重要である。

このような外交は、単発的ではなく、今後も継続的に行われるべきである。また原油価格の変動に一喜一憂せず、中東和平の実現に向けて日本なりの貢献を示すことも大切だろう。

長期的に見れば、湾岸諸国において「知日派」を育てる必要がある。日本好きの「親日派」の数は増えているが、相手国政府に日本の現状や認識を正しくインプットできる人材は決して多くない。日本と湾岸諸国の関係にさらなる厚みを持たせるためにも、「知日派」の拡充に向けた投資を官民協力して急いで行わなければならない。

二階堂 遼馬 東洋経済 記者

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にかいどう りょうま / Ryoma Nikaido

解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。

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