ソニー「PS5」テコ入れで十時社長が異例の舵取り 大黒柱ゲーム事業の再成長を阻む「3つの壁」
また、YouTubeやTwitchなどの動画配信サイトが普及したことで、他人がゲームで遊んでいるのを見るだけ、という人も増えた。有力な配信者が行うゲーム実況が数百万回の再生数を稼ぐことも珍しくない。
こうした変化はコロナ禍でさらに加速した。ユーザー同士がつながっていくための「場」の提供がゲームメーカーには求められている。
ソニーは2022年に約5000億円でアメリカの大手ゲーム開発会社・バンジーを買収しており、大人数が同時参加するタイプのソフト開発を強化している。が、それでもPS5やその周辺サービスにはユーザー同士のコミュニケーションを促すための取り組みがまだ足りていないとの指摘がある。
2013年に発表された先代モデルのPS4には、ボタン1つでプレイ画面の録画をSNSへシェアできる機能や、プレイしている様子を生中継できる機能が新たに搭載され、ユーザーの心をつかんだ。Netflixなどの動画配信サービスが利用できたこともヒットの理由になった。PS5ではそうした変化に乏しく、PS4と比べると訴求力が弱い。
先述の元幹部は「今のソニーからはこの先のプレイステーションをどうしていくかという具体的なビジョンが感じられない。このまま次世代の流れに乗り遅れると、ジリ貧になる」と指摘する。
社長兼グループCFOが舵を取る意味
販売不振の改善や次世代への投資を行ううえで、3つ目の課題となるのが資金繰りだ。ソニーグループの手元資金は約7000億円、対して任天堂は1.2兆~1.8兆円程度、マイクロソフトは約16兆円だ(いずれも6月末時点)。
マイクロソフトは潤沢な資金を活用して買収を進めており、直近ではゲーム開発大手のアクティビジョン・ブリザードを約10兆円で買収し、話題になった。
一方でソニーグループ傘下にはゲーム事業以外にも半導体や映画、音楽などさまざまなセグメントがあり、限られた資金をゲームだけに振り向けるわけにはいかない。今後の成長戦略を練るうえで、資金の配分には注意が必要な状況だ。
ソニーグループはSIEの社長交代を知らせるプレスリリースで「十時はソニーグループ会長CEOの吉田憲一郎およびSIEの経営チームと緊密に連携しながら、SIEのCEO承継を含むプレイステーション事業の今後の方向性についての検討を行っていきます」と踏み込んだ。
グループ社長でCFOも兼任する十時氏は、かつてソニーのモバイル事業で大胆な構造改革を実行し、立て直しに成功した実績もある。それだけに、手ずからゲーム事業の舵取りに乗り出した十時氏がどんな「検討結果」を出すのか。年末商戦を迎えるPS5の販売動向とあわせて、業界全体の注目を集めそうだ。
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