必要な仕事が1日1時間で本当に終わる人の思考法 小手先のやり方では絶対できない時間の削り方
この「働かないアリ」は、自分の体をなめたり巣のまわりをぶらぶらしたりするそうだ。ほかのアリの部屋を見に行ったり、たまに女王アリのひげを触ったりする個体もいたらしい。しかもエサ集め、幼虫や女王アリの世話、あるいは巣の修繕などの労働をほぼ行わないとか。では、こうした「働かないアリ」は単なる怠け者なのだろうか。
社会をつくるすべての生物は、個々の性質が集団に影響し合理的に進化していく。38億年にわたる生物の歴史で、地球の環境はずっと同じというわけではなかった。雪や台風、噴火や地震、寒冷期や温暖期などといった、予測不可能な環境の変化にさらされながら生き延びたすべての生物は、意味のある進化を遂げてきた。
つまり1つの集団(コロニー)に「働かないアリ」がいることも、意味のある進化の結果なのだ。
短時間で仕事を終えることは危機対応にもプラス
仕事をよくこなす個体だけで成り立つ集団は、決まりきった仕事だけをこなすには効率がいい。しかし刻々と変化する環境で組織を動かすには、あらゆる状況に対応可能な「余力(リダンダンシー)」が必要になる。
アリのコロニーでは、効率的に仕事をしない個体を多数抱え込むという非効率なシステムを、進化の過程で採用した。これは予想外の環境変化が起きたら即座に対応できる「働いていないアリ」の存在に必然性が生まれたからだろう。
同じ生物の社会という意味でアリのコロニーをベースに考えると、1日フルに働く社員ばかりでは、環境への適応能力を失うことになる。仕事における環境への適応能力とは、小さな変化に気づき、やがて訪れる大きな変化に適応すること。この最も大切な動きが、できなくなってしまうのだ。
つまり、1日の仕事が1時間で終わるということは、自分自身の人生にだけでなく所属先の危機対応にもプラスの効果をもたらせる。
世界的な経営学者フィリップ・コトラー博士が「日本で最高のマーケター」と称賛する高岡浩三氏(元ネスレ日本CEO)は「考える時間はイノベーションを生み出すためのすべて」とまで言いきっている。
この、イノベーションを重視するネスレ日本全社員の労働時間を1週間調査した結果、考えることに費やしたのは全労働時間のうちの6~7%しかなかったという。つまり革新的なものを生み出すことが比較的得意とされるネスレ日本の社員ですら、労働時間の93~94%は何も考えることなく「いつもの仕事をこなしている」ということになる。
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