医者を拒否し「謎の代替医療に頼る人」のカラクリ 自分の価値観へ固執するようになっていく必然

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日本で行った調査では、全国のがん患者の45%が健康食品や漢方、気功など何らかの代替医療を利用していることが報告されており、統計的に見ても利用率は相当高い(*2)。

今後、前述のように、社会経済状況の悪化によって、「まともな医療」を期待できない人々が増えた場合、現代医療を諸悪の根源とみなすイデオロギーが求心力を持つ可能性があり得るだろう。

治療をめぐるデマはなぜ広がるのか

抗がん剤や放射線治療の苦痛と不条理、あるいは高額な先進医療に対する疑問や躊躇から、「現代医療を妄信して大金をつぎ込むなんて馬鹿げている。『〇〇水を飲めば治る』『〇〇の施術を受ければ治る』」といった極端な代替医療への傾倒が起こるかもしれない。これはマクロ的に見れば、社会階層ごとに大きな隔たりがあるQOL(Quality of life:生の質)の格差拡大を意味するだろう。

コロナ禍を振り返ると、コロナ予防・治療をめぐるデマにおいても似たような事態が起こった。

うがい薬のイソジンが「新型コロナウイルスの予防に効く」などの情報をうのみにして、昨日までは見向きもしなかった商品を大勢の人々が買い占めたことは、まさにTMTが信念に基づく行動を後押ししたことがうかがえる社会現象といえた。

日本ではTMTによる大規模な死者こそ出なかったものの、海外では少なくとも数百人の犠牲者を生んだケースがある。2020年8月に学術誌「American Journal of Tropical Medicine and Hygiene」に掲載されたソーシャルメディアの偽情報が公衆衛生に与える影響に関する研究で、「漂白剤を飲むとウイルスが死ぬ可能性がある」「飲酒はウイルスを殺すかもしれない」「牛の尿と糞を飲むとコロナウイルスを治すことができる」などの噂が確認されたとしている。

特に高濃度のアルコールを摂取すると体を消毒してウイルスを殺すことができるというデマは世界各地で広がった。その結果、約800人が死亡し、5800人以上が入院。そのうち60人がメタノール中毒で失明したと報告している(COVID-19–Related Infodemic and Its Impact on Public Health: A Global Social Media Analysis)。

このようにTMTは、死の恐れが生じることによって、民間療法的な発想が暴走する可能性があることを警告する。

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