医者を拒否し「謎の代替医療に頼る人」のカラクリ 自分の価値観へ固執するようになっていく必然

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まず文化的世界観は、わたしたちが普段当たり前のように認識している価値観のことを指している。例えば自然観や生命観といった事柄(例:すべての物に魂が宿っているとするアニミズムの傾向など)が分かりやすい。ソロモンらは、「人間の命はこのうえなく重要で永続するものという考え方を強化するために、自分たちの文化における政府・教育・宗教の制度や儀式にこだわる」と主張している。

もう一つは、他者からの承認だ。「恐怖を管理するのに不可欠な第二の資源は、一般に『自尊心』と呼ばれる個人的重要性の感覚」だとソロモンらは述べている。ここには孤独・孤立の問題も関係してくるだろう。四半世紀以上の研究を積み重ねて明らかになったのは、人は、「自らが死すべき存在であること」を突き付けられる場面に出くわすと、常日頃信奉している文化的世界観や自尊心を強固にする行動を起こしやすくなるということであった。

自分の価値観への固執

仮に、現代医療は悪と信じている人がいた場合、病気によって死すべき運命を突き付けられると、自分の価値観と合った方法で病気に対処するようになるという。ある実験では、自分の死について考えさせられたアメリカのキリスト教原理主義者は、医療の代わりに祈りに対する支持を強めるようになり、祈りのほうが医療より効果的だと評価するようになった。

このような自分の価値観への固執を踏まえた場合、現代医療に対する絶対の信頼を寄せている者でもない限り、医師からお手上げだと言われたことを受け止め切れずに、代替医療に淡い望みを持つようになることは十分にあり得るだろう。

「生物としての限界」に打ちのめされるよりも、「現代医療の限界」を乗り越える新しい可能性に賭ける方が動揺を抑え込めるという心理的なメリットもある。言い換えれば、「現代医療という科学技術によって治癒不可能な自己」を捨て去り、「超自然(スーパーナチュラル)の魔法によって治癒する(奇跡が起こり得る)自己」を手に入れるのである。

しかもこの選択が真に危険な潜在力を発揮するのは、社会経済が今以上に疲弊して、貧困層の増大が深刻化し、国家が医療や福祉の切り捨てを本格化し始めたときかもしれない。

米イェール大学の調査によると、がんの代替医療を選択して標準的な医療を選ばなかった人々の5年以内の死亡リスクは、標準医療を忠実に続けた人々に比べて最大で5.7倍も高かったという。この調査では、高収入、高学歴で、健康状態の良い患者が多い傾向が分かっている(*1)。

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