医者を拒否し「謎の代替医療に頼る人」のカラクリ 自分の価値観へ固執するようになっていく必然
さらに、長期的な影響としては“霊肉二元論”(人の生命は霊魂と肉体という2つの独立した実体で成り立っているとする考え方)を推し進める懸念もある。とりわけ「驚異的な治癒」を売りにする代替医療の深層には、「人間はすべての病を根絶できる潜在能力を持っている」とみなす19世紀のキリスト教の霊性運動にまでさかのぼるニューソート(新思考)の思想があるからだ。
もちろん、いかなる人間も死と病から逃れることはできないのだから、このような「潜在能力」に関する信仰にはあらかじめ挫折が含意されている。しかし、肉体から霊体を分離し、肉体の側を虚、霊体の側を実と捉えてしまえば、論理的には死と病を超越できる。
その本質は肉体の軽視
その本質は、動物性の象徴である肉体の軽視であり、極端な場合、肉体を捨て去ろうとする危険性がある。同種の考え方を徹底し、結果的に過激な決断に踏み切ったのは、1997年に集団自殺を起こしたUFOを信仰する宗教団体「ヘヴンズ・ゲート」のメンバーだった。ヘヴンズ・ゲートの教義は、個人の霊的成長であり、意識を高次の段階に進化させることを第一義としていた。そのため、物質的なものを重視せず、禁欲的な生活を送ったことで知られる。
集団自殺の直接のきっかけとなったのは、ヘール・ボップ彗星の地球への接近だった。この彗星の後を追っているUFOに、自分たちの「魂」を搭乗させようと思ったのである。破滅の瀬戸際にある地球から「魂」を「脱出」させるには、わずらわしい肉体はむしろお荷物になるからだ。
荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないが、漂白剤やメタノールを飲む行為も、「〇〇水を飲めばがんが治る」も、現実の身体を著しく欠いている点で共通している。とりわけ霊的な存在に働きかける意図を持つ場合は、自らの肉体を一切顧みなくなる恐れすらある。
思想家、都市計画家のポール・ヴィリリオは、ヘヴンズ・ゲートのメンバーについてこう述べた。
「そもそもかれらは死ぬずっと以前から自分の肉体をつかうという習慣を失っていたのである」(『情報化爆弾』丸岡高弘訳、産業図書 )。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら