戦争を引き起こす2つの「戦争火山帯」に注目せよ 西欧秩序が揺らぐと戦争が起きる理由とは

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こうして2023年になってネタニヤフ政権は国内で反対勢力と対立し、イスラエルのあちこちでデモが繰り返されていた。近代国家は宗教国家ではない。その意味で、国家は宗教と関係のない憲法によって規定されている。

特定宗教の律法が憲法を規定するとなると、国家は宗教国家化する。イスラエルの国民すべてがユダヤ教を信奉する人々というわけではない。

ガザ地区は、当然国としての独立を認められていない。そのパレスチナの本体ともいうべきヨルダン川西岸地域の多くの地域も、イスラエルが支配している。

すでにロシアや中国といった136カ国がパレスチナ自治政府「パレスチナ国」を承認しているが、アメリカを中心とした西欧社会は認めていない。当然のことながら彼らの多くはイスラム教であり、ユダヤ教徒ではない。そうなると、ますます宗教化したイスラエル国家の弾圧が倍加する可能性がある。

ハマスの攻撃は既存秩序への挑戦か

今回のガザのイスラム武装組織ハマス(西側ではテロ組織と呼ばれるが、2007年以降この地域を実効支配している勢力である)によるイスラエルの攻撃は、こうした政治的、経済的抑圧状況が引き金になったともいえる。

イスラエルがガザを攻撃して占領し、イスラエルの正式の領土にしてしまえば国際世論は黙っていないであろう。もちろん、ハマスという「テロ組織」だけを取り除くという大義名分も、狭い地域に押し込められた200万人の市民をそこから切り離して救えない以上、無理がある。

ガザがイスラエル攻撃に出たのは、ウクライナの攻撃が失敗し、また北京では「一帯一路」の会議が行われた時期であった。中国とロシアを中心とした東側世界はもはや、西欧に比べすべての点で劣る世界ではなくなっている。

長い間世界を覆っていた国際秩序にもの申す勢力として次第に力をつけてきている。西側基準で世界を考えれば、中国やロシアのいっていることは、不当であるかのように見える。しかし、世界は着実に変わってきていることだけは忘れてはならない。

もちろん、おいそれと西欧が自らつくった価値基準を放棄し、東側の軍門に屈するなどということは考えられない。だから、相手の主張を理解するよりもそれを否定し、西欧型国際基準なるものを世界基準として押しつけ続けるだろう。

しかし、ドル体制であるIMF体制も揺らぎつつあるし、世界の警察官としてのアメリカ軍の力も減少しつつある。アメリカが手負いの虎になって第3次世界大戦に進むのか、それとも新しい世界秩序に地位を譲るのか、その成り行き次第では、先に述べた大地溝帯の戦争火山が爆発し、第3次世界大戦への引き金が引かれるかもしれない。

人類消滅時間は90秒と出ているが、これも西欧が勝手に決めている話で、むしろその鍵を握っているのはアメリカと西欧社会であることを再認識すべきだろう。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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