戦争を引き起こす2つの「戦争火山帯」に注目せよ 西欧秩序が揺らぐと戦争が起きる理由とは

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中東から北アフリカのエジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコへ至る地域と、ソマリアから南スーダン、西アフリカ地域に至るラインも、この一触即発の戦争火山帯に属している。もちろん、中南米とアメリカとの間にも地溝帯がある。

こうした危険地帯は、東西の対立が深まれば深まるほど、その圧力に押され、プレートが押され、爆発する可能性が増大する。ウクライナ戦争はロシアとウクライナのスラブ人同士の問題でもあったのだが、東西対立の狭間に立ったことで、世界の対立構造を照らし出す戦争として出現した。

ウクライナ戦争は、ウクライナ民族の独立を巡る問題から西側資本主義、すなわちNATOの拡大と、ロシアとの攻防という19世紀にあったクリミア戦争(1853~1856年)の図式に戻ってしまったのだ。クリミア戦争はオスマントルコの衰退が引き起こした西欧対ロシアの対立だったが、今まさにそれと同じことが起きている。

19世紀のアジアで起きていた問題

中東問題もオスマントルコの衰退が引き起こした問題であり、イギリスとフランスの植民地化と中東の住民との間に生じた問題であるともいえる。

クリミア戦争により弱体化したロシアに対し、その後西欧の支援を受けたウクライナの独立運動が始まったが、中東地域では第1次世界大戦(1914~1918年)以後、パレスチナに西欧によるユダヤ人入植が始まることによって、イスラム教徒との軋轢が生じた。

ウクライナ人もユダヤ人も、いわば西欧拡大のための捨て駒ともいえるのだが、西側の力によってロシア、イラン、中東を監視する役割を押しつけられたのだ。

西欧勢力の拡大は、19世紀のアジアの南と東でも起きていた問題である。イギリスとフランスは、その橋頭堡をインド、日本、中国につくり、インドと日本をロシアの南下の防波堤にする。それが西欧勢力からみた日本の開国であり、日本人がそれを明治維新として、近代化の糧としたかどうかという日本史における問題は、西欧から見れば、あくまで日本内部の主体的問題にすぎないのである。

こうして19世紀ロシアに対する包囲網として、日本も代理戦争のお先棒をかつがされ日清(1894~1895年)、日露(1904~1905年)、そして第1次、第2次世界大戦(1939~1945年)までの長い戦争を経験せざるをえなくなる。それは日本から見れば、西欧からの自主的独立と欧米化の過程であった。

その意味では、ウクライナ戦争と同じ西欧対ロシアの代理戦争を、日本はすでに日露戦争で体験していたのである。

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