「食べて弔う」戦前の動物園長が評した"動物の味" アオウミガメやペンギン等、珍しい動物の数々

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7点 クマ サイ カバ

林園長のランキングで高得点となっているカバの肉は、現在のアフリカでも美味しい肉とされているようです。

8点 ウシ バク

ここで誰もが食べたことのあるウシが登場します。食肉用としての飼育の伝統があるために、野生種をおしのけてさすがの高得点です。夢を食べるとされるバクも、ウシなみの高得点です。

9点 コガモ類 大蛇蛇類(原文ママ) ツグミ カエルの太もも

ツグミは、戦前において食通たちに珍重された小鳥です。

鳥の発酵食品としてはイヌイットのキビヤックがありますが、ツグミもそのはらわたを塩辛にしたり、米と麹でなれずしにして、発酵食品として食べました(篠田統『風俗古今東西』)。

戦後になってかすみ網猟(空中に細い糸の網を張って、ツグミなどの鳥をひっかけて捕獲する猟)が禁止されたため、ツグミの食文化も廃れました。

ちなみに大正時代にはウシガエルの養殖が行われており、ホテルなどでカエル料理が供されていました。ヘビを食べさせるゲテモノ料理店も存在しました。

江戸時代には「最高の肉」だった動物

10点 エウミ(原文ママ) ツル

「悪食雑記」(前出)によると、動物の中でエミューが最もうまいと林園長が発言していたそうなので、「エウミ」はエミューの誤記であると思われます。

エミュー(写真::saku0550 / PIXTA)

ツルは江戸時代には最高級の肉とされていただけあって、林園長のランキングでも最高得点。

シーボルトは『江戸参府紀行』において、江戸時代のツルについて次のように描写しています。

“ツルは日本ではたいそう珍重され(中略)将軍は毎年必ず自分で捕ったツルを天皇に献上する”

“ツルはたいそう高価で、一羽一二ないし二〇グルデンもする”

“ツルの肉はたいへん需要の多いもので、 大きな宴会ではそれで吸物を作り、肉は煮て食べる”

シーボルトもツルの肉を食べましたが、その味にはあまり感心しなかったようです。

“魚脂のような味のする料理で、この国の人々にはよりぬきの御馳走と思われているが、ヨーロッパ人の口には合わない”

ウィリアム・ダンピアは航海の先々で未知の動物を見つけるやその味を確かめました。ジャン・アンリ・ファーブルはセミなどの昆虫を食べました。目黒寄生虫館の亀谷了は寄生虫研究のかたわらそれを味わってみました。

博物学の根源は、つまるところ人間の好奇心にあり、視覚・聴覚・触覚・臭覚だけでなく、味覚もまた好奇心に駆られるのも、人間の性(さが)といえるのでしょう。

近代食文化研究会 食文化史研究家

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きんだいしょくぶんかけんきゅうかい / Kindai Shokubunka Kenkyukai

食文化史研究家。2018年に『お好み焼きの戦前史』を出版。以降、一年に一冊のペースで『牛丼の戦前史』『焼鳥の戦前史』『串かつの戦前史』『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』等を出版。膨大な収集資料を用いて近代の食文化史を解き明かしている。(Amazon著者ページTwitterアカウントnote

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