所得税に法人税、「減税ラッシュ」がやってくる 法人税減税は「賃上げと研究開発」が要件

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もう1つは、戦略物資生産基盤税制の創設である。

蓄電池や半導体など、GXやDX、経済安全保障などで特に重要なものを法律で指定して、生産量に応じて税額控除を与えるという仕組みを想定している。しかも、その税額控除を10年間とかと長期にわたり付与することを事前にコミットするのである。これは、アメリカのインフレ抑制法でも用いられた生産税額控除(生産量に応じて与えられる税額控除)を参考にしている。

税負担を軽減することを、事前にコミットする仕組みは、(税目は異なるが)NISA(少額投資非課税制度)にもある。つまり、非課税投資上限額をあらかじめ定めて、その金額の範囲内であれば、運用益や売却益に対しては非課税とすることとし、その非課税保有期間に期限を定めず将来にわたり税負担を課さないこととしている。ただ、生涯非課税限度額をあらかじめ定めている。

こう見ると、戦略物資生産基盤税制で新設する生産税額控除についても、上限の設定は必須だろう。

事業成功のインセンティブ設計が必要

それと、生産税額控除が適用される企業に、別途違う形で巨額の補助金が出されるということになると、過保護になりかねない。

補助金は、受け取った後で事業が成功しても失敗しても、もらった補助金を返す必要がなく、その意味で補助金をもらったからといって必ず成功させようという規律が働かないのに対して、生産税額控除は、その事業が成功して収益が上がらないと控除の恩恵が受けられないという緊張感がある。

だから、生産税額控除を与える企業に対しては、補助金漬けにしてはならず、事業の成功にインセンティブを与える仕組みにしなければならない。

イノベーションボックス税制も戦略物資生産基盤税制も、税収が減ることになるから、財政収支が悪化しないようしっかりとした財源が必要である。前掲の防衛増税の法人税は、防衛力強化の財源となるものであって、これらの税制の財源にはならない。

法人税制の中の別の減税措置をなくして財源を捻出するのが困難ならば、2021年度や2022年度の補正予算でこしらえた不要不急の基金を取り崩したり、特別会計にある財源を差し出すことで、これらの税制の創設も可能となろう。

減税一辺倒にならず、需要を刺激しすぎて物価高騰をあおらないようにしつつ、わが国の今後を見据えた産業構造の転換に資する税制改正が望まれる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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