所得税に法人税、「減税ラッシュ」がやってくる 法人税減税は「賃上げと研究開発」が要件

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イノベーションボックス税制は、わが国の現行税制では端緒すらない仕組みであるから、一から仕組みを作り上げなければならない。

まず、知的財産を用いて上げた企業収益とそうでない企業収益とを区分けしなければならない。

知的財産の譲渡収入とかライセンス収入とかならば、明確に知的財産を用いて上げた企業収益といえる。しかし、知的財産を組み込んだ製品の売却益をとなると、上がった売却益のうちどこまで自社が持つ知的財産と1対1で紐づけられるか、容易には示せないかもしれない。

小さく産んで、大きく育てる

例えば、製薬会社なら、どの特許を使ってどの医薬品を作ったかが明確なので、知的財産を組み込んだ製品の売却益を示すことは容易かもしれない。しかし、自動車会社だと、自動車はさまざまな部品から構成されているから、その売却益を、自社が持つ知的財産から生じたものとそれ以外のものとに分けることは、容易ではないかもしれない。

区分けが容易でない業種に足並みをそろえて、概算で知的財産を組み込んだ製品の売却益のうち自社の知的財産から生じたものを区分けしたうえで、低い税率を適用するという税制を採用すると、知的財産の研究開発との関連付けが希薄となり、その税制を使った企業がやすやすと減税の恩恵を受ける割には日本国内で研究開発を行うインセンティブがうまく働かない恐れがある。そのうえ、税収の減少も大きくなる。

イノベーションボックス税制という新しい仕組みを導入するわけだから、いきなり多くの業種が幅広く簡単に使えるようにするより、租税回避と疑われないようにしっかりとした仕組みを確立して、次第に適用できる業種や企業が増えてくるという形で臨むのもよいだろう。

つまり、最初は小さく産んで大きく育てるという発想である。

この税制をあえて新設する意義があるのは、欧米の減税措置を横目に見つつ、日本にある研究開発拠点が外国に移転しないようにするところである。それに寄与しない形でイノベーションボックス税制を設けるのは、現時点の要請とはいえない。

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