ジャニーズ「当事者の会」要請、妥当か不当かの拙速 被害者救済のあり方と私たちの目線

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SMILE-UP.は「(事務所に残った)所属タレントが企業やメディアから再び新たな契約を得るために急ぎたい」のが本音でしょうが、当事者の会は「急がずじっくり進めたほうが納得できる結果が得られやすい」と思われるだけに、仮に「なんらかの手を打ちたかった」のだとしても、この内容がよかったのかどうかには疑問が残ります。

お金より先に要請してほしいもの

さらに、もし要請書を出すとしても、ジャニーズ事務所に伝えるのみにとどめ、世間に公表しなくてもよかったのではないか。被害者にとって重要な11月を前に、厳しい声が飛び交う現在の状況を見ると、「急ぎすぎたのではないか」と感じてしまうのです。

それでも当事者の会の決断を慮るとしたら、被害者として表に出て戦い続けることは、私たちの想像以上に、心身ともに苦しいことなのかもしれません。「誹謗中傷に悩まされる日々が続く中、戦いの姿勢を表に出して、先手先手で攻めるくらいでなければ踏ん張っていられない」という心境であれば、要請書の内容やタイミングも理解できるところがあります。

あらためて要請書を見ると、2の「事実の全容究明」と、4の「具体的な手続内容、認定基準および補償基準の速やかな公表」に関しては、世間の人々がジャニーズ事務所の姿勢に不満を抱き、改善を求めていることでした。「被害者に話を聞いてお金を払っておしまい」ではなく、「もっと内部調査や検証を行い、包み隠さず発表することで再発防止につなげてほしい」と考えている人々は多いでしょう。

もしお金に関することを後回しにして、こちらを前面に出して要望していたら、人々の心証はまったく違うものになったのではないでしょうか。もちろん被害者にそれを求める必然性はありませんが、「もう少し世間を味方につけられるブレーンのような存在がいたら」と感じさせられました。

いずれにしても、第三者である私たちは被害者救済を第一に考えて見守っていくべきでしょう。もし被害者の言動に多少の疑問を抱いたとしても、批判のような強い言葉ではなく、気づきをうながすような穏やかな言葉をかけられる世の中でありたいところです。

これを読んでくださったみなさんも、被害者救済のあり方について、あらためて考えるきっかけになれば幸いです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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