80代の母、主治医に勧められた「胃ろう」すべきか 始めたら中止が難しい「延命治療」という選択

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主治医が胃ろうを「自然」とするのは、胃ろうは、口から摂るのと同じ栄養分を摂取できることにあると思います。

胃に穴を開ける最初の処置に抵抗感を持つ人もいますが、口から食べるのと同じ栄養分を、胃に直接入れられるという点では、自然に近いと言えます。これに対し、中心静脈栄養は、点滴によってカロリーの摂取はできるものの、成分は水に溶ける栄養に限られます。

栄養を入れるための点滴(末梢静脈栄養)(写真:筆者提供)※一部加工しています

いずれの手段を選んでも自宅で過ごすことができますが、介護する側の負担はどちらが大きいかといえば、胃ろうです。

胃ろうは、半固形のゼリータイプの栄養剤を押しながら入れるか、点滴のように液状の栄養剤を入れる方法がありますが、食事と同様、1日に2〜3回、栄養剤を入れることが必要になります。ゼリータイプの栄養剤を入れるのに、1回数十分、点滴の場合には数時間かかります。

これに対し、中心静脈栄養は、24時間ポンプで点滴を入れ続けることができ、点滴のバッグを交換するのも1日1回で済みます。そのため、最初の処置後の介護の負担でいえば、中心静脈栄養のほうが小さいです。

途中で中止するのが難しい延命治療

中心静脈栄養や胃ろうといった人工栄養は、いずれも延命治療にあたり、患者さんや家族がそれぞれの方法についてしっかりと理解したうえで、よく考えて選択することがとても大切です。なぜなら、延命治療は一度スタートすると、「やっぱりやめます」と途中で中止するのが、基本的に難しいからです。

命を支えている人工栄養をやめるという選択は、人工呼吸器のスイッチを切るのと同じ意味合いになり、命を終わらせる行為につながります。そのため、延命治療をするかどうかは、「とりあえず」で決めるのはもってのほかで、最初の時点でよく考えたうえで判断することが大切なのです。

A子さんは、「胃ろうを勧める」という主治医の意見も踏まえ、母親にどうしたいか聞きました。

すると母親は、胃ろうも中心静脈栄養も「どちらもやりたくない」と言います。今の状態だと「年単位での生存が難しい」と言われているのは前出の通りです。それを踏まえても、胃ろうも中心静脈栄養もせず、体が弱っていくことは「仕方がない」と口にしたそうです。

延命治療をするかどうかは、命に関わる大きな問いでありながら正解がなく、本人だけでなく、家族にとっても非常に重い決断になります。

延命治療をする場合、どの手段を取るにせよ、自力ではなく、医療の力によって生きていくことになり、それをどう捉えるかは個々の価値観によって変わってきます。

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