幸い、A子さんの母親は抗菌薬のおかげで一命は取り留めました。ただ、嚥下障害が残っていることもあって、思うように食事ができない状態が続いています。現在は、腕や足などの末梢の血管から点滴をしています。
そんななか、主治医から本人や家族に「今の状態が続くと、年単位での生存が厳しい」という見通しが伝えられました。「口から栄養が摂れるようになり、薬剤を口から服用できるようになれば、嚥下障害も改善するかもしれないものの、その可能性は低い」というのが主治医の見立てです。
一方で、母親は意識が鮮明で意思の疎通もできるため、より生き永らえるための栄養摂取の手段として、主治医から2つの手段が提示されました。1つが、高カロリー輸液を太い血管から入れる「中心静脈栄養」、もう1つが胃に外から管を通して栄養を入れる「胃ろう」でした。
「胃ろう」か「中心静脈栄養」か
現在、A子さんの母親に行われている末梢静脈栄養は、末梢の細い血管から点滴を行っているため、1日に補給できる水分以外の栄養やカロリーに限界があります。
一方、中心静脈栄養は心臓に近い太い血管から栄養を入れることができるので、1日に必要なエネルギー量を確保することができます。そのため、食べられない状態が長期間にわたると想定される場合には、この中心静脈栄養が必要になります。
中心静脈栄養を行うときは、短期間であればカテーテル(管)を直接、太い血管に入れますが、長期間になると点滴の針を入れる土台として、CVポート(皮下埋め込み型中心静脈アクセスポート)と呼ばれる専用の医療機器を皮下に埋め込みます。
これには30分〜1時間程度の手術が必要になります。ただし、一度CVポートを設置すれば、安静にしていなくても輸液がしっかり体内に投与されることから、在宅でも対応が可能です。
対して胃ろうは、お腹に小さな穴を開けて管を通し、胃に直接栄養剤を入れる方法です。穴を開ける最初の処置として、15分ほどの手術が必要になります。
A子さんの母親の主治医は、「自然に近いのは胃ろうなので、そちらを勧めます」と話したそうです。「胃ろうといっても、穴を開けるだけなので簡単ですよ」という医師からの説明は、ものの数分で終わったそうですが、それぞれの方法に関する具体的な説明がなく、後から私に話が聞きたいと連絡がありました。
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