「がんばりすぎる人」ほど変われない悲しい理由 もはや自分の意識では動いていない

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本来の「私」を崩壊の危機から守るために生まれた「わたし(パーツ)」は、危機的な状況が過ぎ去ったあとも「私」の中に存在し続けます。過去に自分を襲った膨大な量の感情とともに。それも、いっさい風化もせずに、です。

そして、ストレスなどで日常生活を維持できないほど切羽詰まると、「私」と「わたし」を分離する壁の力が弱まります。また、封じ込めた「危機」と似たような状況が起こったりすると、奥に封印している「わたし」の感情が激しく活性化します。

すると、「わたし」の感情や記憶が抑えきれずに壁から漏れ出てきてしまったり、時には洪水のようにあふれ出てきてしまうことがあります。過去の危機のときのままの感情が、当時の温度感、臨場感のままで押し寄せてくるのです。

このような、トラウマ担当のパーツによる感情に圧倒されると、もはや理性では自分をコントロールできない状態に陥ります。

それはまるで、分離して隠されていた「わたし」が、自動操縦によって本来の「私」をコントロールしているように感じられるでしょう。

これが「人が変わったように怒ってしまう」とか、「競走馬のようにがんばる『わたし』に引っ張られる」といった感覚の正体です。

生きるための自己分裂

このように、危機的な状況になんとか適応するための、生存戦略としての自分の分裂のことを「解離」といいます。トラウマが原因となって生じてくるさまざまな反応のことを「トラウマ反応」といい、解離はトラウマ反応のひとつです。

つまりパーツとは、あなたがその人生で経験してきたさまざまな危機を乗り越えるためにどうしても必要だった、生存戦略の産物なのです。

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それは、解離という手段によって、処理しきれないほど衝撃的な感情や身体感覚、記憶などとともに封じ込められた存在です。封印したものに簡単にアクセスできたら日常生活が安定しませんから、いつもは普段の人格とはとても遠い場所に壁を隔てて封じ込められています。

だから、トラウマ反応としての感情は、普段の「私」にはコントロールできないし、思い出せないようになっています。アクセスできない場所に封印をしなければ意味がないので、当たり前です。

つまり、「わたし(パーツ)」というのは、普段の「私」という自我同一性から隔離された存在なのです。あなたのようでいて、あなたそのものではない。あなたの日常を守るために、身代わりになった存在ともいえます。

まずは、この「わたし」の存在に気づくことが、自分との付き合い方を変えるきっかけになるはずです。

鈴木 裕介 内科医・心療内科医

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すずき ゆうすけ / Yusuke Suzuki

2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズに参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。また、研修医時代の近親者の自死をきっかけとし、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動や講演、SNSでの情報発信を積極的に行っている。

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