「結婚生活は不幸」嘆く夫婦に伝えたい本当の価値 夫婦の仲を維持し親密にする最も大きな力とは?
「あんたが死んでしまえばいいのに」
だれが言ったかはわかりませんが、妻が死んだら夫はトイレでほくそ笑む、という言葉があります。その姿を思い浮かべるだけで鳥肌が立ちます。憔悴した顔で弔問客を迎えていた男性が、1人でトイレに入って笑う姿……。
この話はおそらく結婚の日常にうんざりし、心のなかで妻が死んでしまえばいいのに、と思っている男たちの想像から始まっているはずです。
しかし、妻たちもおとなしくしているだけではありません。酒を呑んで夜遅く帰ってきた夫が眠っている家族を起こして大騒ぎをすると、妻は背を向けて横になったまま、こう考えるかもしれません。
「あんたが死んでしまえばいいのに」
結婚生活の不可思議
ある瞬間、結婚生活が監獄のように感じられることがあります。そんなとき、わたしたちは小言を言う人も、仕事を命令する人もいない心休まる世の中を夢想します。さらに、相手がそっと去ってくれるのを望むこともあります。
しかし、本当に不思議な関係が夫婦です。死んだらいいのにと思っていた夫がいざ連絡なしに数日間いなくなるだけで大変不安になるし、ある日、後ろ姿すら見たくなかった妻が病に倒れると、1人取り残されるのではないかと突然におじけづいたりします。
オー・ヘンリーの短編小説『振子』は、そんな結婚生活の不可思議な側面を面白おかしく描いています。
主人公のジョンは、職場から帰宅すると妻と夕食を食べ、ふたたび外出して友人たちとビリヤードを楽しんでから帰宅する、というのが基本的な日常パターンの男性です。妻がそのときどきに発する小言は、彼の冷めた日常を一層つまらなくさせます。
ところがある日、ビリヤードを終えて家に戻ると妻がいません。時間が経つにつれて、彼はだんだんと不安になります。実は妻がいない生活をただの一度も考えたことがなかったのです。 彼の生活のなかに空気のように溶け込んだ存在の妻でしたが、彼はそのありがたさがわかっていませんでした。彼を縛っていた結婚という鎖は、妻の不在によって解けますが、彼は何一つ自分ではできません。
妻を1人残してビリヤードばかりに興じていた自身を責めはじめたジョン。そのとき、実家に戻っていた妻が、なにごともなかったようにドアを開けて入ってきます。一瞬ためらったジョンは、時計を見て立ち上がります。まだ友人たちがビリヤード場にいる時間!
妻の不在によってようやく妻の存在感に気づきますが、ジョンは妻が戻るとすぐにすべてを忘れて、ふたたび自分勝手な日常に戻るのでした。
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