世間で信じられている「嘘のサイン」大いなる誤解 間違った解釈ですれ違いをうまないために

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④の「顔や鼻を触る」は、専門的にはマニピュレーターと呼びます。正確には、身体の一部を触ったり、なでたり、つねったりする行為のことです。顔や鼻だけに限らず、頭でも、首でも、胸元でも、腕でも、足でもよいのですが、これらの場所を触っていたとしても、嘘をついているとは限りません。マニピュレーターは、感情が揺れ動き、それをなだめようとするときに生じます。感情に波が起きる原因はさまざまで、嘘のサインではありません。

一方、私の知人の元刑事は、マニピュレーターを嘘のサインだと主張しています。これは間違った主張でしょうか。大雑把に言えば、間違いですが、状況や条件を加味するとそうとも言えなくなります。これは、マニピュレーターに限らず、一般的に嘘のサインではない動きも、状況・条件によっては嘘のサインとなります。

①~④の動きが嘘のサインかそうでないかは、単一の研究ではなく、複数の研究を統合したメタ分析(DePauloら, 2003)を根拠としています。このメタ分析に含まれている研究を個々に具体的に見る、あるいは、メタ分析後に実験された近年の研究を見ると、マニピュレーターが嘘のサインとなる場合もあることがわかります。

条件により、さまざまな動きが嘘のサインに?

例えば、嘘のサインを単体ではなく、コンビネーションとして捉える場合、嘘をついている者に、恐怖および嫌悪表情、シュラッグ(肩などをすくめる動作)、前後左右の身体の揺れ、硬直した姿勢、そして、マニピュレーターが多く観察されることがわかっています(Matsumoto & Hwang, 2020)。

また、個人差を勘案する方法があります。例えば、窃盗事件が18時に発生したとします。このことを知っているのは、被害者と捜査官、そして犯人とします。事件発生日は、新聞報道などで誰もが知っているとします。

容疑者を逮捕します。そして、取調室で事件があった日のアリバイを聞きます。聞かれた相手は誰もが緊張するでしょう。事件があった日は誰もが知っており、その容疑者が本当の犯人だとしたらアリバイが崩れることを恐れて、犯人でないなら冤罪を恐れるからです。

しかし、犯人でなければ、何時に犯罪が起こったかわからないため、時間を問わず、ずっと緊張する可能性があります。一方の犯人は、午前中、お昼のアリバイに比べ、18時以降のアリバイ供述時に緊張するでしょう。この緊張度の相対的な違いが、マニピュレーターにも生じる可能性があります。

ですので、先の元刑事がこうしたことを経験していれば、マニピュレーターが嘘のサインだと主張することに無理はなく、一定の妥当性を認めることができます。

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