あの青いゴミ箱のルーツは「肥桶」だった 雑誌タイプの社史を読んでわかったこと

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社史では、主力商品のイレクターにも多くのページを割いて、これまでの歩みを紹介しています。イレクターとは、金属の管を樹脂でコーティングしたパイプで、ジョイントを用いて、さまざまな形に組み合わせて使うことができる製品です。

当初はあまり売れなかったそうですが、ホームセンターで扱われるようになって売り上げを伸ばし、工場の製品ラインなどにも使われるようになりました。長年にわたるホクトとの、キノコの栽培棚の共同開発の事例も、社史に掲載されています。現在では福祉の分野にも用途を広げています。

社史からわかる、ヒット商品誕生までの模索

社史を見ての個人的な印象ですが、とりあえず役に立ちそうなものを作ってみて、もし売れなくても、用途を模索しながら販売し、生活や社会になくてはならないものに根付かせていった製品が多いように思えました。

これ以外にも社史には、いくつかの製品が紹介されています。「PINPOINT STORY」というコーナーで紹介されているのは、住友銀行のラッキー箱(ノベルティ貯金箱の先駆け)、レインボーセット(七色のフタの着いたプラスチック製の容器セット)、丹頂型といわれた電話ボックスの赤い屋根、本田技研工業の二輪車・スーパーカブのフロントフェンダーです。なんだか読んでみたくなりませんか。

写真やイラストなどを多く用いている社史だからこそ、パラパラめくって「こんな製品を作ってきた会社なんだ」と、私は知ることができました。この点は、雑誌風の社史のメリットといえるでしょう。製品を中心に会社の歴史を紹介した構成が、うまくはまった1冊です。

珍しい、二代目社員座談会も掲載

さて、社史には、よく座談会が掲載されています。参加の対象は、OB・OG、役員、中堅社員、社長と若手社員、などさまざまです。この社史の座談会は、あまり類例を知らないのですが「二代目社員座談会」で、親子で矢崎化工に勤めることになった4名の座談会です。

「子供の頃から会社主催のイベントに参加していた」「矢崎化工の製品に慣れ親しんで育ってきた」「面接に行くと伝えるまで、母親が勤めていた会社だと知らなかった」「親が矢崎化工はどんな会社だといっていた」……など、二代目社員ならではのエピソードが語られています。対談の内容からはアットホームな社風も伝わってきます。

実は、私は社史に掲載されている座談会に、あまり注意を払ってきませんでした。最近、同僚が「この社史の座談会、面白いですよ」と時折教えてくれるので目を通してみると、本編としては盛り込めなかった裏話や小ネタが出ていたり、会社の考え方が現れていたりして、「けっこう楽しいものだ」と気づかされました。

1冊に凝縮された、会社の数十年分の記憶は豊かなものだと、あらためて感じている昨今です。

高田 高史 神奈川県立川崎図書館 司書

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たかだ たかし / Takashi Takada

1969年8月生まれ。学習院大学大学院修了後、司書として神奈川県に入庁。現在は神奈川県立川崎図書館にて、社史室の運営、科学技術系のサービス全般を担当している。図書館での調査をテーマとした『図書館で調べる』(ちくまプリマー新書)、『図書館が教えてくれた発想法』(柏書房)などの著書がある。趣味は国内旅行とウクレレ。

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