分断のイスラエル、ハマス奇襲で団結の機運高まる 今後は地上部隊の投入につながる可能性も

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いつもはにぎやかなイスラエルの都市テルアビブの街頭は閑散とし、学校は休校となり、フライトはキャンセルされた。予備役が招集され、多くの人々が急きょ軍服を身につけている。

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を受け、民間人を中心に多数の市民が殺害されたイスラエルは、ハマスの軍事インフラを破壊する準備を進めている。

イスラエルでは最高裁の権限を弱めるネタニヤフ政権の司法制度改革に抗議し、大規模な抗議活動が繰り広げられてきたが、ハマスによる7日の攻撃開始やレバノンへの紛争拡大の懸念で、政治対立は影を潜めた。

野党はネタニヤフ首相と挙国一致の戦時内閣づくりを議論しており、政権に反対する抗議活動も、南部の家族や兵士を支援したり募金したりすることに焦点がシフト。これまで拒絶しきた当局とも協力している。

ただ、何カ月も長期化が必至の過酷な軍事作戦の下で、イスラエルを奮い立たせている団結がいつまで続くかは不透明なままだ。ネタニヤフ氏は当面は政権の座にとどまるであろうが、情報・治安当局が今回の奇襲を事前に把握することができなかった事実は衝撃をもたらした。

1973年10月の「第4次中東戦争」の口火を切ったエジプト、シリア両軍によるイスラエル奇襲攻撃当時に首相だったゴルダ・メイア氏は、その数カ月後に不名誉な形で辞任しており、ネタニヤフ氏も同様の政治的代償を払うことになる可能性がある。 

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いったん棚上げ

戦時には政治的な立場の相違はいったん脇に置かれるが、ネタニヤフ首相は攻撃を未然に防げなかったとの理由で、政権にとどまる時間はあまり残っていないのではないかと、大手経済紙カルカリストの創業者兼発行人、ヨエル・エステロン氏は指摘する。

エステロン氏は「抗議活動でメイア氏は退陣に追い込まれたが、それは終戦後のことだった」とし、「今回もこうした事態が予想される。挙国一致内閣が成立する可能性は大きいものの、戦争終結後も続くか問えば、そのようには考えられない」と話した。

イスラエル軍はハマスの攻撃に対する報復として空爆を開始し、今後は地上部隊の投入につながる可能性もある。現時点でイスラエル国民は何がうまくいかなかったかの問題よりも、どう進むかに重点を置き、奇襲を防げなかった理由の調査はその後になるだろう。

  

団結の機運が高まっている理由の一つには、ハマスによる奇襲に続いてレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラによる同様の攻撃に見舞われるとの懸念が挙げられる。ハマスとヒズボラはともにイランの強い支援を受け、テルアビブも十分射程距離内に入るものも含め、多数のミサイルを地下の発射装置に装備している。

イスラエルが全軍をガザに振り向ければ、ヒズボラが北方から攻撃する機会と捉えるとの懸念も深まっている。バイデン米政権はこうした可能性を阻止するため、空母「ジェラルド・R・フォード」などから成る空母打撃群を地中海東部に向かわせた。

一方で、米国が仲介するサウジアラビアとイスラエルとの関係正常化に向けた協議は同国が軍事行動に全力を注ぐ間は一時停止となる見通しだ。

ネタニヤフ氏が首相であり続けるか、政権の座を去るかのいずれであっても、協議が再開されるかどうか予想するのは難しい。米国とサウジはともに協議の進展を望んでいるものの、中東地域が紛争状態にあればそれは不可能だ。

他方、ハマスが今回の攻撃をずっと計画していたのかどうかも明確でない。サウジとイスラエルの関係正常化が実現すれば、パレスチナへの関心が低下しかねず、ようやく最近それを阻もうと狙い、イスラエル国内の分断を好機と捉えた可能性も考えられる。

また、イスラエル軍情報部門のディレクターを務めていたアモス・ヤドリン氏は、イランが最近になってパレスチナ支援の取り組みに投資することを決めたとしている。イランは中東地域で反米・反イスラエル勢力を主導してきたが、その影響力がどの程度強いのかはっきりしていない。

原題:Fractured Israel Unites Around a Singular Goal: Crush the Enemy(抜粋)

--取材協力:Galit Altstein.

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著者:Ethan Bronner

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