母親の「子連れ出張」に理解が及ばない日本の現実 やる気があっても「出張できない」母親たちの苦悩

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P&Gジャパン合同会社執行役員の住友聡子さんは「その後、一人ひとりの社員の状況が多様化する中でもっと柔軟性を持たせた仕組みにしようということになり、子どものいる人などに限らず、誰でも使える“My Pay My Way”という福利厚生制度へと変更しています」と説明する。

“My Pay My Way”では、上限金額内で、今までのようにシッター料金に使うこともできるし、家族との旅行や自分の趣味や学びのために使うこともできる。本社のある神戸や東京で、出張中の社員が優先的に使える保育施設の枠を用意するといった取り組みもしていたというが、実際の利用者がかなり少なく限定的であったため見直したという。

子連れ出張を認めるべき理由

子育てシェアサービスを自治体などと連携して展開しているAsMamaの甲田恵子社長は「利用者の方や弊社社員の中には、地方出張の際に面談済みのコンシェルジュさん(研修などを受講済みのAsMama認定サポーター)に預けて、親は心置きなく仕事、子どもは出張先を楽しむ体験をしている方がいますよ」と話す。

「(出張先の)同室の一角や別室に託児スペースを作ることもあれば、小学生以上のお子さんなどであれば、仕事に同行させて働く姿を見たり、それに飽きたら現地ツアーに連れ出してもらうということあります」と甲田社長。

大手企業ではアカデミアのように研究費から交通費まで出す動きはほとんど見られないが、それは出張手当が充実していることもあり、子守りの手配などは個々人でやりくりしている事例も多いのかもしれない。

子どもを連れた出張は、「遊び気分」「旅行感覚でいいね」とみられがちだが、子連れ出張を何度か経験した筆者にすれば、正直に言って子連れでの仕事は大変なことが多い。「できれば連れていかずに済ませたい」というのが本音の親も多いのではないだろうか。

それでも、子連れ出張が選択肢として取ることができると、さまざまないい面がありそうだ。たとえば、「あの人は子どもがいるから、この仕事は任せづらい」と上司などが“過剰な配慮”をして本人の意図と反してキャリアアップを妨げてしまうことや、子育て中の当事者があらかじめ「この仕事は自分にはできない」と諦めてしまうといった“意欲の冷却”を防ぐことができる可能性がある。

意思決定の場面や、管理職が男性ばかりであるときに「能力で評価したら男性ばかりになった。それの何が悪いのか」という声は今なお多い。企業はもちろん、政治やアカデミアの世界でも頻繁に聞かれる。

しかし、子どもなどのケアはいまだに男女で大きく偏りがあり、家庭内でその差を是正していくことは喫緊の課題となっている。同時に、男女かかわらず育児や介護といった誰かのケアを担っている人が、罪悪感や自己負担を抱えずに、能力をきちんと評価してもらったり実績を積んだりする場面や、能力を伸ばす機会への参加を妨げられないような環境整備も必要だ。

そうした面でも「子連れ出張」の必要についての認知や理解が広がってほしいし、各業界や各企業の実情に即した制度が出てくることを願ってやまない。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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