薬不足の深層「赤字品を作れない…」製薬の本音 漢方薬まで出荷制限のドミノ倒しが止まらない

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業界外から見ると驚くほど非効率だが、後発薬メーカーが「多品目・少量生産」に陥るのには訳がある。薬は長く市場にある品目ほど価格が下がるため、新しい品目を次々に発売していかなければ利益を出し続けることができない業界構造なのだ。

実際、後発薬の約3割は赤字品目といわれる。「生産余力があり物理的には代替供給ができる場合でも、不採算な薬は作れば作るほど赤字を垂れ流すことになる」(後発薬メーカーの元社員)。そのため「増産したくない」というメーカー側の隠れた本音もある。

では、なぜ赤字品がここまで多いのか。公費で賄われる薬の販売価格は、政府が決めている。これが「薬価」だ。薬局や医療機関は医薬品卸から薬を仕入れるが、その際の仕入れ価格と薬価の差が「薬価差益」と呼ばれ、薬局や医療機関の儲けになっている。

高齢化による医療費増を抑えるため、国は薬局が仕入れた価格を調べ、その価格を参考に翌年の薬価を決めている。当然、卸との価格交渉で仕入れ価格は下がることが多く、薬価は下がり続けている。

メーカーに余力はない

この値下げに追い打ちをかけているのが、薬局のチェーン化だ。薬局が大規模化するほど彼らの購買力が上がり、卸への値下げ圧力が強まっている。

価格競争の激化も、値下げに影響した。さらに2年に1度だった薬価改定は2021年から毎年行われるようになり、後発薬の採算性はますます悪化した。供給不安に対応する余力はすでにメーカーには残されていない状況だ。

それでも日本の後発薬の金額シェアは先進国の中でなお低く、政府は後発薬の利用促進を加速させる方針だ。後発薬メーカーの幹部は、「これ以上後発薬への置き換えだけで財源を浮かせるのは限界だ。医療費を減らすなら、先発薬も含めて薬が無駄に処方されていないかも見直してほしい」と嘆く。

恨み節にも聞こえるが、一理ある。医師が適切に薬を処方しているのか、その処方をチェックする薬剤師が本来の役割を果たせているのかも、医療費抑制と供給不安の改善には欠かせない。本特集では後発薬産業の再編策、問われる薬局の役割について深掘りする。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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